“希少疾患化”する病気の診断・治療の時代へ―オムニチャネルマーケティングの可能性
◇ITヘルスケア学会・シンポジウムから【前編】
かつては診断が困難で治療方法がなかったような希少疾患にも、技術の進歩で診断・治療が可能になったものがある。ただ、患者数が少ないがゆえに、正しく診断され、治療にたどり着くまでには長い「ペイシェントジャーニー」をたどることも少なくない。より適切なタイミングで適切な治療を患者に届けるために注目されているのが「オムニチャネルマーケティング」だ。このほど東京都内で開かれた第16回ITヘルスケア学会年次学術大会では「新時代の医療におけるマーケティング―患者さんに最速で最適な医療を届けるために」と題したシンポジウムで、オムニチャネルマーケティングの現状と可能性、製薬企業での取り組みについて発表があった。講演のダイジェストを2回に分けてお届けする。
◇井上座長の問題提起
冒頭、座長の井上祥・メディカルノート代表取締役が、企画の趣旨を次のように説明した。 ◇ ◇ ◇ テクノロジーが進み、医療が進歩していくのはよいことです。しかし、それが患者さんに届いているのかについて、強烈な問題意識を持っています。 たとえば、臓器別の疾患概念によって現在「肺がん」といわれている病気は、遺伝子技術や解析技術が進んでいくことによって「この遺伝子によって肺にがん病変が生じた」といったようにどんどん細分化されていく時代が来ると思っています。 従来型医療の時代は、多様な患者さんに対して1つの治療がなされてきました。診断技術が進み治療も進歩していくと、全ての病気が“希少疾患”化し、個別最適な医療が適切なタイミングで患者さんに届く、ということができるようになっていくのではないかと思っています。 コンセプトとしては非常に素晴らしいのですが、その一方でペイシェントジャーニーがどんどん複雑化し、患者さんに適切な医療が届くことが難しくなる、時間がかかってしまうのではないかと懸念しております。 そうしたなかで、マーケティングの考え方が非常に重要なのではないかと思います。マーケティングとは、患者さんに最速で最適な医療を届けるためにあるのではないか、という問題意識から今回のシンポジウムを組みました。