<紡ぐ思い・センバツ2021北海>選手へのエール 元校長・北明邦雄さん(73) /北海道
◇「質実剛健」体現して 「こういう状況の中で好きな野球ができることに感謝し、自分たちが培ってきたものを発揮してほしい」。2011年3月、校長として選手たちにこう語りかけた。東日本大震災が起きた直後で、1995年以来16年ぶりに出場を決めたセンバツ開幕が目前に迫っていた。校長を退いた今も、コロナ下で開かれるセンバツを前にこんな思いがにじむ。 1885(明治18)年に北海英語学校として創立した伝統校の第10代校長を2013年まで約6年務めた。在任中、野球部は08年夏、11年春・夏と甲子園に3回出場した。特に印象に残っているのが、震災直後に行われた11年春のセンバツだ。全試合をスタンドで見守った。 1回戦は創志学園(岡山)を2―1で降し、23年ぶりにセンバツで勝利し勢いに乗った。2回戦は天理(奈良)を1―0で破り、準優勝した第35回大会(1963年)以来48年ぶりに8強入り。勝ち上がるたびに応援は熱を帯びた。 だが当時、震災で多くの人が避難所生活を強いられ、行方不明者の捜索が続いていることなどを考慮し、アルプススタンドの応援で鳴り物は禁止された。「静かな大会だったことが強く印象に残っている」と振り返る。 校長時代を通じ、甲子園に出たチームには共通点があったと感じる。「軸となる投手がいて、守りと攻撃の形がかみ合い、チームの底力につながっていた」。08年は後に日本ハムに入団し、巨人移籍後も活躍を続ける鍵谷陽平投手が柱。11年は後に法政大や明治安田生命で活躍した玉熊将一投手が中心となった。現チームはプロ注目の左腕・木村大成投手を擁する。 現在、北海道被爆者協会の事務局次長として平和活動に携わる傍ら、卒業生による「北海校校友会」の名誉顧問を務める。「旧制中学から戦後の時代を経て、99年に男女共学になっても受け継がれる伝統がある」と言う。公式戦だけでなく、日々の練習にも多くの卒業生が見学に訪れることだ。 今年2月上旬、10年ぶりのセンバツ切符を手にした選手たちの練習を見学した。体育館で打撃練習や体力トレーニングに励み、野球部OBの平川敦監督、08年夏に鍵谷投手(当時)とバッテリーを組んだ立島達直部長らが指導に当たっていた。卒業生が見守り、OBが指導し、創部120年の歴史が脈々と積み重なる。 「チーム力が結果を左右するスポーツ。選手たちの精神状態を含め、どのようなチームに仕上げていくのか注目したい」と語り、北海魂の体現を期する。 北海は建学以来の精神の一つに「飾り気がなく真面目で心身共にたくましい様」を意味する「質実剛健」を掲げる。「野球部の歴史は質実剛健、北海スピリッツを最もよく表している」 今大会、飛沫(ひまつ)拡散を防ぐためアルプス席でのブラスバンド演奏は禁止された。10年前と同じく静かな大会になるが、飾り気なく、たくましい姿を見せてほしいと願う。【三沢邦彦】=終わり