石川佳純&平野美宇&伊藤美誠の卓球女子ライバル関係を紐解く
もちろん大会で優勝するには日本人選手を倒さなければならないし、2020年東京五輪日本代表の国内選考を考えれば日本の選手に負けるわけにはいかない。自ずと闘志に火が点くというものだ。実際、平野と伊藤は先輩の石川に対し、「必ず超えなければならない相手」と口を揃え、挑戦を受ける側の石川は「(自分に向かってくる)年下の選手と試合をする時、どうしても守りに入ってしまうことがあるが、どんな場面でも自分らしいプレーに集中している」と追われる立場ゆえの心境を覗かせながらも、世界ランク日本人トップを走る。 だが、アジアカップの石川は準決勝であたったリュウ・シブン(中国)との対戦にやはり力が入ったようで、結果的に2-4で敗れたものの勝てるチャンスを何度も作った。そして試合後には、「いいところまでは行くが、せっかく来たチャンスボールをミスするなど最後が取りきれない。そこを取り切るために、まだまだ課題はある。その一方では手応えもあった。今までより確実に良くなっている」と饒舌にゲーム内容を振り返った。 また平野もアジアカップ全体を通して、大会初日の予選リーグでドゥ・ホイカン(香港/世界ランク32位)に負けたことをことのほか悔しがり、「今年に入って中国人以外の海外の選手に負けたことはなかったのに」と肩を落としていた。国際大会の現場で彼女たちを取材していると、本気で2020年東京五輪の金メダルを目指す今の選手たちは、「日本人対決」に色めき立つ周囲をよそに世界を見ているのだと痛感する。 試合のない普段はどうだろうか。日本の女子の場合、日頃の練習環境は「母体」と呼ばれる各選手の所属先に分散され、定期的に行われるナショナルチームの強化合宿以外、選手が一緒に練習することはない。唯一、石川と平野は同じナショナルトレーニングセンター(NTC)を練習場にしているが、練習そのものは選手ごとについている専属コーチと練習パートナーと行っている。 他方、世界王者中国の事情はどうかといえば、代表クラスの選手を一堂に集めて一緒に練習をさせ、技術向上とライバル意識を高めているという。まさしく切磋琢磨の世界だ。こうした練習環境を実現できるのは日本に比べ選手層の厚い中国だからこそと言えるだろう。 その中国に今秋、石川、平野、伊藤の3選手がそれぞれ渡り、レベルアップを図ろうとしている。先に中国入りしたのが伊藤。甲Aリーグ(中国最高峰の超級リーグの1つ下のリーグ)に参戦するため現地で練習を開始した。石川、平野も超級リーグ参戦を視野に入れ調整中だと聞く。本気で強敵中国を倒し世界一を狙う彼女たちは、ヒリヒリするような厳しい競争の世界に身を置き、己を磨いている。それは「切磋琢磨するライバル」という常套句がもはや陳腐に思えてくるほど、孤独な戦いだ。 (文責・高樹ミナ/スポーツライター)