新幹線延伸や新型車のデビュー、そして消えた車両や社名も 鉄道業界の2024年を振り返る
災害とトラブルが相次いだ2024年
2024年は、1月1日に能登半島地震が発生し、翌2日には日本航空機と海上保安庁の航空機が滑走路上で衝突し炎上する事故が起きるという、「災」が続く出だしとなりました。 能登半島地震では、住宅や道路などで多くの被害が発生したのはもちろんのこと、能登半島を走るのと鉄道やJRの七尾線も被災。さらに、震源から離れた黒部峡谷鉄道でも、落石で鉄橋が損傷したことで、2024年は一部区間の運休を余儀なくされました。これにより、富山県が2024年に一般開放・旅行商品化を予定していた「黒部宇奈月キャニオンルート」も、年内の開放が断念されています。 災害だけでなく、機器故障などに起因するトラブルも、新幹線で多発しました。1月には、東北新幹線上野~大宮間で架線が切れる事故があり、新幹線のダイヤが終日乱れる事態に。3月には「つばさ」が郡山駅でブレーキが効かず、大幅に過走するトラブルが発生しました。さらに9月には、走行中の「はやぶさ」「こまち」の連結器が外れる事案が発生しています。東海道新幹線でも、7月に保守用車が脱線し、ダイヤが大幅に乱れるという輸送障害がありました。 9月には、JR貨物で車輪の輪軸の検査データ偽装が問題となり、他社でも同様の偽装が次々と発覚する事態となりました。
ついに始まった「新信号システム」の運用
12月7日、東京メトロ丸ノ内線で、「無線式列車制御システム」(CBTCシステム)の運用が始まりました。同システム(ATACS(後述)を除く)の本格運用は、日本では初めてのこととなります。 CBTCとは、無線を活用して列車どうしの間隔を保ち、安全な運行を実現するためのシステムです。前を走る列車は、地上の装置に対し、無線で走行している位置を送信します。地上装置は、先行列車の位置情報をもとに、その次を走る列車が停まらなければいけない地点(停止限界点)を、後続列車に送信。後続列車では、そのデータにより、停止限界点までに停まれるよう、車上のシステムで停止パターンを生成し、先行列車に接近した場合にブレーキを掛けられるよう備えます。もちろん、先行列車が動けば停止限界点も変わるため、このデータのやりとりは常時発生していることになります。 これまで丸ノ内線で使用してきた保安装置「ATC」は、「閉そく」(固定閉そく)という概念に基づいていました。ある地点間には1列車しか入れないようにすることで列車間隔を保つという思想で、ほとんどの鉄道路線(複線の路面電車を除く)で使われている仕組みです。簡単かつ確実な仕組みではあるのですが、一方で閉そくの境界地点は固定されているため、列車間隔を詰めたい際にはデメリットとなります。先行列車と後続列車の距離が離れていても近づいていても、先行列車が前方の閉そく区間を出ない限り、後続列車はその区間に進入できないため、必ずしも効率的な運転が可能とはいえません。 無線で位置情報をやりとりするCBTCは、停止限界点を常時計算することで、固定された閉そくの概念をなくすことが可能となりました。結果、信号回路などの物理的な設備の制約によらず、安全な間隔を保って列車を走らせることができるようになり、ダイヤ乱れ時の復旧が容易になるなどのメリットが生まれています。このほか、これまでのシステムで必要だった「軌道回路」の設置が不要となり、線路設備故障の抑制やメンテナンス作業の軽減を実現。また、万が一片方の線路が使えなくなった場合、もう一方の線路で列車を走らせることも、丸ノ内線のCBTCシステムでは可能となっています。 CBTCは、国外では導入する事業者が増えています。一方の日本では、類似した無線式システムとして、JR東日本が開発した「ATACS」が実用化され、仙石線と埼京線(および簡易システムを適用した小海線)で導入されたのみ。その他の会社では、導入に向けた取り組み(実証実験含む)を進めている事業者はあるものの、これまで実用化には至っていませんでした。 日本では今後、東京メトロ半蔵門線・東急田園都市線、都営地下鉄大江戸線、西武の各路線で、CBTCの導入が予定されています。信号システムという、一般旅客にはあまり縁のない部分ではありますが、丸ノ内線での運用開始は、日本の鉄道の歴史の一ページに残るできごととなりそうです。