原油高騰は円安を加速する弱点、貿易赤字と米利下げ後退のスパイラル
(ブルームバーグ): 中東情勢の緊迫化を受けた原油上昇リスクの高まりは、エネルギー供給の大半を輸入に頼る日本の通貨にとって下げが加速しかねないもう一つの弱点だ。
国際原油相場の指標である北海ブレント原油先物は昨年12月に付けた安値から既に20%以上上昇し、イスラエルとイランの対立激化への懸念が原油価格を一段と押し上げる恐れが生じている。野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストの試算では、原油価格が10%上昇すると年間で3-4円の円安要因になるという。
円は主要通貨の中で最もパフォーマンスが悪く、対ドルで34年ぶりの安値まで下落している。日本銀行の追加利上げが小幅にとどまる可能性が高い一方、米国の底堅い経済情勢を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ時期が後ずれし、日米の金利格差が拡大するとの見方が背景だ。
原油価格がさらに上昇すれば、日本の貿易赤字が拡大すると同時に世界的なインフレ圧力も高まるため、FRBや他の海外中央銀行は利下げに踏み切りにくくなり、円安に拍車がかかる。
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マネックス証券の債券・為替トレーダー、相馬勉氏は「原油が高くなると、日本は輸入に頼っているため、需給の面から円安という発想につながりやすい」と指摘。「原油高で物価上昇という連想にはなるが、日銀が急いで金利を上げるとは考えにくく、金利差も残ったまま」と話している。
日本の貿易収支の赤字(季節調整値)は、エネルギー輸入が急増した2021年以降続いている。財務省のデータによると、石油と天然ガス、石炭を含む鉱物性燃料は総輸入額の約4分の1に及ぶ。
インフレ調整後の輸出額が3年ぶりのレンジにとどまるなど、円安でも日本の輸出競争力は上がっておらず、投資家はよりリターンが高い海外の証券に資金を振り向け、企業も成長する海外での投資を増やしている。貿易収支の赤字基調など日本経済が直面する課題克服策を議論するため、財務省は3月に有識者との懇談会を立ち上げた。