わが社のイチ押し-玉谷製麺所(西川)のアートパスタ 伝統の中に新しさ
創業75年の歴史を刻む玉谷製麺所(西川町)。口数少ない職人肌の玉谷隆治社長(48)と、妻でバイタリティーに富む専務の玉谷貴子さん(47)はもともと、大学の農学部応用生物学科で先輩後輩の間柄だった。嫁ぎ先の同社が貴子さんの創意工夫を受け止めながら、伝統の中に新しさをプラスした製品作りを具現化している。 さまざまな形をしたアートパスタは同社が世界に誇る自信作。誕生には物語がある。きっかけは貴子さんが包装をデザインした自社製品「月山黒米パスタ」「月山黒米うどん」などが2012、13の両年度、日本デザイン振興会(東京)のグッドデザイン賞を受けたことだった。デザインは貴子さんの得意分野の一つだ。 受賞が東北芸術工科大(山形市)の関係者の目に留まり、同大のサポートによる県内異業種のブランド「aGarey(アガレイ)」の立ち上げに参加(14年)。貴子さんが中心となり「雪結晶パスタ」を作った。この製品がアートパスタの原点となった。
開発に当たり、当初は雪結晶の金型を作り、パスタ用「デュラム小麦のセモリナ」を使えばできると構想した。だがパスタの本場イタリアの金型職人に「食べられるものにならない」と言われた。なるほど完成した金型で作ったところ形が崩れ、ゆでても固いままだった。職人によると、食べられるパスタにするには一筆で描ける、もしくは丸が融合した形でないと、不格好で固くなるという。 試行錯誤は1年ほど続いた。玉谷信義・現会長(76)に「ゆで上がらない状態だったら発売できない。諦めなさい」と言われた。だが貴子さんは諦めが悪かった。試しに水からゆでるとうまく仕上がった。これをヒントに玉谷会長に相談し、配合を変えることで思い通りの製品が完成した。約9分で美しく、おいしく仕上がるパスタができた。そば・うどんで培われた、企業技術との融合だった。 この技術を応用したアートパスタは以来、次々と姉妹品ができた。現在は桜の色形をした「サクラパスタ」のほか将棋、ブルーインパルスなど全12種類がある。輸出も行われ、14カ国の高級スーパーなどで取り扱われている。こうした海外展開が評価され、経済産業省の23年度「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に選ばれている。大手企業のプライベートブランドとして、車や列車、ゲームキャラクターのマカロニも手がけている。