会社員も“払いすぎた税金”を「過去5年分」取り戻せる… その具体的方法と“見落としがち”な「税制優遇制度」とは【税理士解説】
申告漏れによる「払いすぎ」はなぜ起こる?
更正の請求の原因となる「申告漏れ」としては、どのような要因が考えられるのか。 黒瀧税理士は、単純な「申告し忘れ」「計算の誤り」以外にも、「税制優遇制度の不知・誤解」によるものもかなり多いという。 黒瀧税理士:「まず、所得控除や税額控除や還付の制度は、それらを知っていて、自分が対象になるか確認したうえで、申告しなければ利用できません。 詳しくは後述しますが、各種控除の制度自体は知っていたとしても、思い込みで自分が対象外だと誤解しているケースがかなり多いのです。 また、青色申告の個人事業主でありがちなのが、黒字だった場合に、その前の3年間に生じた赤字分を控除して税金を計算できる『純損失の繰り越し控除』を忘れているケースです。逆に、赤字の場合に、前の年が黒字ならばそこから差し引いて税額を計算し直し、差額分の還付を受けられる『純損失の繰り戻し還付』を忘れていることも考えられます」
誤解しやすい控除の制度の例は?
自分が対象外だと誤解しやすい控除の制度として、どのようなものがあるのか。黒瀧税理士は、「ひとり親控除」「医療費控除」「地震保険料控除」の3つを挙げる。 黒瀧税理士:「まず、『ひとり親控除』はいわゆる『シングルマザー・ファーザー』が35万円の所得控除を受けられるものです。 誤解されやすい要因は、2020年から始まった新しい制度だからです。2019年までは『寡婦控除』『寡夫控除』の制度があり、いずれも対象が『婚姻歴のあるひとり親』に限られていました。しかし、それでは法の下の平等(憲法14条)に反するし、不合理だろうということで、婚姻歴の要件のない『ひとり親控除』に統合されました。 事実婚をしておらず、子と生計を同じくしていて、子の所得の合計額が48万円以下で、自身の所得が500万円以下であれば、『ひとり親控除』の対象です。強調しますが、婚姻歴の有無はもう関係ありません」 医療費控除で誤解が生じるのはどのような場合か。 黒瀧税理士:「医療費控除は、年間に支出した医療費が10万円を超えた場合に、その差額分の所得控除を受けられる制度です。 問題は、どこまで医療費に含められるかです。治療費や薬剤の代金だけでなく、治療を受けるために必要なものが広く含まれます。具体的にどのようなものが含まれるかは、国税庁のHPで確認することができます。 特に誤解が多いのは、医療機関へ公共交通機関を利用して行くのにかかった交通費です。これは治療を受けるために必要な費用といえるので、医療費に含まれます。帰る途中に買い物などでどこかに立ち寄った場合も、治療を受ける必要があって支出した以上、対象となります。 ただし、同じ交通費でも、タクシー代は公共交通機関の停留所等へ行くことが困難な場合などの特別な事情がない限り、認められません」 地震保険料控除については、そもそも地震保険に加入した認識がないケースも多いという。 黒瀧税理士:「『地震保険』という独立の保険商品はありません。 あくまでも、地震で建物の倒壊がした場合や、地震によって発生した火災による被害は火災保険の対象外なので、それを一定額までカバーするため、火災保険に『特約』として付けられているものです(『地震危険補償特約』などの名称)。 したがって、火災保険と一緒に地震保険に入ったという認識がなく、申告していないケースがあります」 折からの物価高騰で家計が苦しくなるなか、もし、気付かずに税金を払いすぎていたとしたら、非常にもったいないことといわざるを得ない。ちょうど年末調整と確定申告の間で、一年のうちでもっとも税金への関心があるといっても過言ではないこの時期に、過去5年間に税金の払いすぎがないか、所得税や住民税についての知識を得ることも兼ねて、確認してみてはどうだろうか。
弁護士JP編集部
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