工房職人の技「金子眼鏡」高級ブランド化への軌跡 低価格チェーン隆盛の中で“逸品”を訴求
技術を持った職人が廃業する時代だったが、金子眼鏡は会社を訪ねてきた職人・山本泰八郎氏の腕を見込み、「泰八郎謹製」(セルロイド製)を発表。その後、「井戸多美男作」など“職人シリーズ”のメガネを展開している。一連の取り組みでブランドに骨太さも加わった。 「2010年頃までは企画からプロデュース、生産、販売に至るまですべて自分で決めていたのですが、現在は取締役の伊藤琢磨に商品企画や開発を任せています。私が担うのは店舗デザインで、出店立地の選定から外観や店内の世界観、商品の見せ方などを決めています」(金子真也社長)
メガネの市場規模は約4000億円、「アイウェア」(眼鏡・コンタクト・補正器具等)で約5000億円といわれる。一般的なメガネの平均価格帯は調査データによって異なるが、例えば「約2万8000円」(2023年6月総務省統計局小売物価統計調査)となっている。 「実態として、この20年ほどは平均客単価が下がり、顧客数は増えているが金額ベースの市場規模は縮小している」というのが金子真也社長の見解だ。 人口の多い団塊ジュニアが老眼世代に入り、メガネ人口はさらに拡大するといわれる。それでも「金額ベースの市場規模が縮小」するのは、着せ替え感覚で何本も所有するため、低価格のメガネを求める消費者が増えたこともあるだろう。
■メガネ人口拡大期における“逸品”戦略 一方で、消費者心理を考察してきた筆者は、「メガネの逸品意識」が興味深い。高価格のメガネを奮発して購入するといったメリハリ消費を感じるのだ。 身に着ける品でいえば、若い世代は総じて腕時計への逸品意識は高くない。ビジネスの打ち合わせの際にスマホで時間を確認する時代だ。 低価格のメガネ購入を「これでいい」感覚で選ぶとすれば、高価格のメガネ購入は「これがいい」というピンポイントの選択だ。金子眼鏡は後者の消費者に訴求する。
「当社のフィロソフィーは“幸せな気分でいてほしい”の思いを込めたものです(アイウェアを通して世界中の人々に「夢」「感動」「幸福」を提供し続けます)。お気に入りの品を身に着けると気分も上がるので、そうした商品開発をめざします」(金子真也社長) POSレジのデータだけで消費者傾向を判断せず、目の前の客と五感で向き合う。その姿勢が徹底されればハイブランドとして支持されるだろう。
高井 尚之 :経済ジャーナリスト、経営コンサルタント