工房職人の技「金子眼鏡」高級ブランド化への軌跡 低価格チェーン隆盛の中で“逸品”を訴求
時代性についても補足しておこう。セレクトショップの先駆者である「ミウラ&サンズ」が渋谷に開業したのは1975年で、2年後「SHIPS(シップス)」になった。「BEAMS(ビームス)」も同時期に創業しており、1980年代になると各地にセレクトショップが拡大した。 ■白山眼鏡店との縁 同社の進化の話を聞き、筆者はバッグ業界における吉田カバン(株式会社吉田)の例を思い起こした。吉田カバンは1962年に自社ブランド「ポーター」(PORTER)を立ち上げ、消費者に訴求してきた。同業他社が海外ブランドから認可を受けてライセンス商品を生産し、それを小売店が販売して発展した時代でも、ライセンス生産には関わらなかった。その結果、自社ブランドの存在感が高まった。
金子真也社長に聞きたかったことがある。大学を卒業して帰郷した前後、「白山眼鏡店」(はくさんがんきょうてん:本店は東京都台東区上野)をどう見ていたのか。 「当社とは違う形のファッション訴求をしていたと思いますが、1975年にオリジナルフレームを製作するなど、同社代表の白山將視(しらやま・まさみ)氏は憧れの存在でした」(金子真也社長) 1980年前後のメンズ雑誌をひもとくと白山眼鏡店の存在感が目立つ。メガネ好きには昔から知られた同店だが、金子真也社長はこんな因縁を明かす。
「実は当社(JEH)のもうひとつの代表ブランド『フォーナインズ』(999.9)の創業者・三瓶哲男は、白山眼鏡店に勤務して手腕を発揮しました。その後、仲間と一緒にフォーナインズを立ち上げたのですが、その世界観には白山を感じさせるような一面もあります」(同) フォーナインズは2021年にJEHの傘下に入ったが、金子眼鏡とは別の路線でハイブランド訴求をしている。 ■低価格チェーンが台頭する中で 1990年代以降のメガネ業界は、安価な中国製品が大量に流入し、低価格で訴求するチェーン店が存在感を高めていった。例えば「JINS」ブランドを展開するジンズホールディングスは、2001年にメガネ業界に参入後、成長を続けている。