「天下り」再び批判 何が問題なのか? 坂東太郎のよく分かる時事用語
●官民「癒着」や「談合」の温床に
明治期より政治家や官僚と接近して仕事を有利に進めていく「政商」は存在しました。官と民が癒着しておいしい思いをしてきたのです。近年、大きな問題となったのが「官製談合」です。 「談合」とは国(地方自治体も同じですが今回は除外します)、つまり府省などが事業を発注したり購入する際に行われる競争入札で、業者側が事前に話し合って「今回はA社に取らせよう」と決めて、選ばれたA社が一番安いお金を示して請け負う(落札)する行為です。 競争入札が行われるのは、役所の仕事は役人のポケットマネーではなく国民から預かる税なので、なるべく安くやらせた方が国益にかなうという論理に基づきます。「談合」は自由競争であれば本来もっと安くなる可能性があるのを妨げるため、税の無駄遣いにつながり、いけない行為とされています。官製談合は発注側の役人がかかわるのが異なります。役人が「A社にいくらで落札させる」と前もって決めたり、価格を事前にもらしたりするのです。 ここで暗躍するのが天下り組という危険性が排除できないのです。役所と業者には次のようなメリットがあります。 (1)役所側のメリット……高給の天下り先を確保できる (2)業者のメリット……落札できる。引き受けた天下り組の賃金より受注金額が大きくなるので高給優遇も痛手ではない もっともこの構図は税金を無駄遣いしている点で、国民の利益は損ねています。天下り組は経営そのものや会社の普段の仕事ではなく、こうした役所とのパイプで力を発揮します。肩書きも参与、参事、顧問、調査役といった「何やっているんだ?」という名称が目立ちます。
●受け皿として無駄なポストも?
また天下りのために自ら作っているのではないかと疑われる「公益法人」ポストも無駄と指弾されてきました。かつては「特殊法人」が代表でした。「特別の法律により特別の設立行為をもって設立」された存在で、最後に「公社」「公団」「公庫」「事業団」といった名が付く例が多い。最大で100を越えた後に徐々に減少していったものの、多くは統合したり独立行政法人へ看板を変えたりして、結構今でも生き残っています。また財団法人や社団法人といった公益法人にも役所の関与が強いとみなされているものがたくさんあるのです。 問題は、こうした公益法人がきちんとした仕事をしているか。またそうだとしてもその役員(トップクラス)へ天下って高給をもらうのはどうかという批判もあります。 「天下り」の代名詞が特殊法人であった頃には、こうした政府関係の機関で働く天下りでない職員による「政府関係特殊法人労働組合協議会」(政労協)が、1972年から「天下り白書」を出して具体的に批判してきました。その職に新入からある者にとって、いわばあこがれの地位である理事長、総裁、副総裁などの主要ポストが、昨日まで名さえ知っていたかどうかもあやしい中央省庁の肩たたき組がいきなり座ったのでは労働意欲がそがれてしまうといった観点からの考察です。その内容は衝撃的で「特殊法人の役員の6割以上は天下り。その他政府の関係の深い機関も加えると8割近く」(『88年天下り白書』)などと告発しています。
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】