<藤浪晋太郎が激白 第1回>まだ60%の力しか出せていない
高知・安芸の阪神タイガースのキャンプ地にある通称「安芸ドーム」。その殺風景な事務室に阪神の藤浪晋太郎投手は、頭をかがめるようにして入ってきた。圧倒的なスケール。存在感……。そして、取材者の顔を見た第一声は「お待たせして申し訳ありません」である。 そんな挨拶を自然にできる19歳は、なかなかいない。彼に備わっているものの深さに触れた気がした。4球団競合の末、ドラフト1位で阪神に引き当てられたスーパールーキーは、開幕からローテーションを守り、24試合に登板、10勝6敗、防御率、2.75の成績を残した。セ・リーグで高卒ルーキーが10勝以上を記録したのは、阪神伝説の左腕、1967年の江夏豊氏以来46年ぶり5人目の快挙である。今回、THE PAGEでは、逆境にこそ強さを発揮する藤浪投手に、今シーズンの総括と来季への展望を含めて「ピンチに勝つ方法」をテーマにインタビューをさせてもらった。3回に分けて掲載する。 ――1年目のシーズンが終わりました。「自分はプロなんだ」と実感した瞬間はありましたか? 「そんな感傷に浸ることはなかったですね。初めて給料が振り込まれたときには『社会人になったな、大人になったな』とは思いましたが。まだまだ若いんで(笑)、野球が仕事だと一瞬、一瞬で感じることはなかったです。ただ、1年を通してみて『仕事として野球をやっているんだ』とは思います」 ――プロのレベルに初めて接して「困ったな」ということは? 「困った点は別になかったんです。ただ高校時代と決定的に違うのは打者の対応力です。例えば1打席目と2打席目、1試合目と2試合目。確実に対応されてきますからね」 ――常に相手の対応の一歩先を行かねばならない? 「相手の研究の先をいかねばなりませんが、野球は騙し合いです。自分が持っているボールで、いかに相手のミスを誘うかが大事なんです、しっかりと考えることです」 ――配球や研究は、常に追っかけ合いで「相手に追っかけさせれば勝ち、追っかけると負け」とも言われています。データなどはノートにきっちりとつけているんですか? 「高校時代は部の決まりで野球ノートをつけていたのですが、今年に限ってはノートはつけませんでした。今後は、もしかすればつけるかもしれませんが」 ――記憶として頭の中に入っているのですね。 「全部が全部を記憶しているわけではありませんが、スコアラーの方から資料を用意していただいていますし、DVDもデータもワンシーズン分はありますからね」