なぜ起業家が「遺言革命」に挑むのか。Sansan寺田親弘が「遺贈寄付で社会を変えられる」という理由
「起業家の目から見ても、(費用対効果として)すごい倍率のかかり方だと思い、『遺贈寄付』という仕組みにいっぺんに興味を持った」 【全画像をみる】なぜ起業家が「遺言革命」に挑むのか。Sansan寺田親弘が「遺贈寄付で社会を変えられる」という理由 「遺言というものを再定義したい。(定義を作り直すのは)テーマとして自分が一番燃えるもの」 社会課題の解決に挑むソーシャルセクターに資金が回らない問題を「寄付」の一種で解決できるかもしれない ──。ベンチャー起業家の嗅覚として可能性を見出した背景を、Sansan創業社長で起業家の寺田親弘氏はこう表現した。 10月17日、寺田氏が新たに一般社団法人日本承継寄付協会の理事に就任することを公表した。Sansanの経営トップ、自身が発起人となった私立高専「神山まるごと高専」の理事長職は変わらず、新たに1つ要職を増やした形だ。 寺田氏と言えば、時価総額2600億円(10月時点)の東証プライム企業・Sansanを現役で経営する一方、2019年に有志らと立ち上げた高専プロジェクトを4年で「神山まるごと高専」として開校にこぎ着けた実績を持つ。また同高専の実質無償化を実現する100億円ファンドを立ち上げるなど、実業界でも指折りのビジネス感覚と実行力を持つ人物として知られている。 その寺田氏が衝撃を受けたとまで語るのが、司法書士の三浦美樹氏が代表理事を務める日本承継寄付協会が取り組む「遺贈寄付」という仕組みが持つポテンシャルだ。 遺贈寄付とは、相続財産の⼀部を、遺⾔を通じて⾮営利活動法⼈(NPO法人)や地域の学校などに寄付することで社会貢献する⽅法のことだ。 「250万円の財源で、遺言書を書くのにかかる費用を50件分、5万円ずつ助成するキャンペーンをしたら、その遺言書によって申し込まれた遺贈寄付金の総額が『11億円だった』と聞いて。 神山まるごと高専の経験から、寄付金を集める大変さはよく知ってます。これはすごい倍率(レバレッジ)のかかり方だと」(寺田氏)
相続の専門家でも「口にしたことがなかった」
日本承継寄付協会は、2019年に設立。司法書士の三浦美樹氏が代表理事を務め、遺贈寄付という仕組みの理解と認知を広げるために活動している。寄付先の団体などを紹介する情報誌「えんギフト」を約1万部発行するほか、遺言書の作成費用を助成する「フリーウィルズキャンペーン」などを展開している。 三浦氏によると、日本では毎年140万人ほどの人が亡くなっていて、1年間に相続される遺産総額はおよそ50兆円にのぼる。 「もしこのうち1%=5000億円が毎年ソーシャルセクターに流れるようになったら、日本は相当変わると思う」(寺田氏) けれども、残念ながら日本では、遺贈寄付という選択肢があること自体、ほとんど知られていないのが現状だ。 三浦氏は自身で協会を設立する以前は約10年間、相続専門の司法書士として多くの案件に携わってきた。 それでも、自ら関心を持って向き合うまでは「相続の現場で、遺贈という言葉を口にしたことがなかった」(三浦氏)という。「なぜ口にしなかったのかといえば、どんな寄付先があるのか、ほとんど何も知らなかったから」(同) だったら、まずは知ってもらえるようにしようと自らNPOを立ち上げ、相続に携わる司法書士や弁護士、金融機関に向けて講演をしたり、無料の情報誌「えんギフト」を立ち上げて設置場所開拓するといった活動を5年間にわたって続けてきた。