2作品で100万円!「アート委嘱」の絶大なる潜在力 毎年5人「アーティストの卵」を選び制作依頼するVCの真意
しかし、今回のインスパイアのプロジェクトは、企業とアーティストの新しい関わり方を示すものといえる。まとめると以下の3点だ。 1点目は、期間限定の周年イベントとしたこと。今回、インスパイアは美術館をつくるわけではない。表彰するわけでもない。しかも5年で25人50作品という具合に、期間を区切った。 「周年行事を一流のホテルやホールなどを借りて行うとなれば、平気で1000万円を超える支出になる。それはそれで意義はあるものだが、アーティストの卵の作品を購入すれば費用を抑制できるうえ、有形のものとしていつまでも価値が残る」(高槻社長)
2点目は、社員の通常の業務にも絡めていること。インスパイアではこれまでも、社内に華道部を作って池坊のいけばなを学ぶなど、アートと触れる機会を創出してきた。高槻氏個人が購入した高屋永遠、新井文月などの作品もオフィス内に飾られている。今回のプロジェクトによって、アートから得られる刺激を大切にしてきたインスパイアのカルチャーを拡張させることができる。 3点目として、本業と関連がある点も見逃せない。いうまでもないことだが、アーティストの卵が”出世”すれば、委嘱作品の価格が高価になるかもしれない。「計測が難しいものに価値を付ける、という点では企業投資と芸術作品は似ているところがある。そうした価格形成のメカニズムを体感できるので、社員にとっては得がたい経験になると思うのです」(高槻社長)。
■アートの世界の新しいエコシステムに? たしかに、社員にとっては大きな刺激になりそうだ。 なお、1人に100万円を支払うのはやや相場から外れており、「高額すぎる」との批判の声もあるという。そのため「第2期からは価格を引き下げると思います。申し訳ないことではありますが、”第1期は特別”ということで了解してほしい」(高槻社長)とのこと。 インスパイアにインスパイア(刺激)されて、企業が若手に作品制作を委嘱する試みが増えていけば、アートの世界に新しいエコシステムが育つことになりそうだ。
山田 俊浩 :東洋経済 記者