宇宙物理学の未解決問題「なぜ大質量のブラックホールが存在するのか?」考えられている2つのモデルとその問題点
宇宙物理学の謎「ファイナルパーセク問題」
それでは、太陽質量の数十倍のブラックホールどうしの合体が何度も繰り返されて、太陽質量の10億倍もの巨大ブラックホールまで成長したと考えるのはどうでしょうか。 星どうしの合体といっても、広い宇宙空間で星同士が正面衝突する確率はゼロに近いのです。二つの星が互いの周りを回る連星をなしているとしましょう。公転半径は保たれます。 この連星の公転半径が縮んで合体するためには、その角運動量が減少する必要があります。通常は角運動量の総和が保存するため、連星系の角運動量を減らすには、連星の外側に角運動量を何らかの形で運び出す必要があります。星と星が合体するためには、その天体系の角運動量を外側に持ち去る必要があります。 そのため、ブラックホールどうしなどの質量の大きな天体が合体する場合には、そのまわりに存在するほかの天体が外に飛ばされることで、角運動量が持ち去られます。 しかし、この合体が何億回も続く可能性は限りなくゼロです。とくに、互いに数光年まで接近すると、もはや角運動量を外に運び去ってくれる天体がほとんどなくなってしまい、合体するまでには宇宙年齢以上の時間がかかるとされています。 これが、「ファイナルパーセク問題」とよばれる宇宙物理学における未解決問題の一つです。
トップダウンの方法
もう一方のトップダウンの方法は、どのような過程でしょうか。 まず、太陽質量の数十万倍もの大質量星を想定します。そのような超大質量星は不安定になることが理論的に知られています。宇宙誕生の頃にそのような超大質量星があれば、直ちに自己の重力によって崩壊し、巨大ブラックホールとなります。 しかし、この方法は、超大質量ブラックホールを作る難問を宇宙初期に超大質量星を作るという問題に置き換えたに過ぎません。また、超大質量星を宇宙の初期揺らぎで準備することは、以前の記事で見た通常のインフレーション理論のシナリオでは難しいのです。そのため、この考え方では、宇宙の初期条件に関する新たな知見が必要になります。 トップダウンの方法もボトムアップの方法も、巨大ブラックホールが存在する理由を説明することは極めて難しいのが現状なのです。しかし、観測ではさまざまな巨大ブラックホールが発見されています。 このように、観測によって巨大ブラックホールの数密度や形成時期を探ることは、最終的に我々の宇宙の初期条件を知る手がかりとなると期待されています。
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