総裁選で盛り上がった「選択的夫婦別姓」論議、選挙終わればほったらかし、露わになった自民党の「問題先送り」体質
■ 「男の呪縛」からの解放 「男=稼いで一家を養うもの、家事育児をやる必要はない」という「オラオラ」な固定的性別役割意識に縛られていた彼が、一家の大黒柱の座を妻に明け渡した。 アメリカで文字通り妻の稼ぎで暮らし始めて、「これでいいのだろうか」という葛藤や孤独感と闘いながらも、自分自身の「大黒柱バイアス」という鎧を少しずつ脱いでいった体験談を聞くにつけ、「女性活躍推進」というかけ声がやたらと喧伝される一方でジェンダーギャップ指数で見るといつまでも世界の中で立ち遅れたままという日本社会のありようについて考えさせられた。 同僚の女性記者がシッター代に多額の給与を注ぎ込んでいる姿を見て、「なぜそんなにしてまで働くの?」と平然と言い放ち、「女性閣僚が何人誕生」というような話題にニュース価値をまったく見出せない。かつてそんなだった小西さんは、このたびの衆院選に際してこう言っていた。 「政治とカネの問題はもちろん、政治部時代にはまったく頭の片隅にもなかったジェンダー問題。これを投票の際に自分にとっての大切な争点にした」 駐夫時代を経て、その体験をもとに大学院に進んでジェンダー問題について研究し、修士課程を修了して初めて臨んだ国政選挙。自身のキャリアシフトとともに、有権者としての政治の見え方も大きく様変わりしたという。 「昔は政局一辺倒だったが、今は政治記者目線、そして生活者目線の『2眼レフ』で見ている」
■ やっと俎上に乗った選択的夫婦別姓 戦後最短、首相就任から8日後の衆院解散、そしてわずか26日後の投開票となった今回の衆院選。その投開票日のわずか1カ月に行われた自民党総裁戦において、選択的夫婦別姓が大きくクローズアップされていたことも大きかった。 小西さん曰く、「自民党総裁選でここまで選択的夫婦別姓制度が語られるなんてすごいこと」。法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を求める答申をしてから30年近く経つが、これまで部会などでしか語られてこなかったことが可視化され、オープンに議論されるようになった。これによって国民的な関心として俎上に乗ったという。 「小石河」連合と呼ばれた小泉進次郎、石破茂、河野太郎の各氏は自身が推進派であることを明確に示した。採決に際して党議拘束を外すとまで言い切った小泉氏は総裁選序盤で優勢とされ、世間の関心も集めた。 そんな総裁選を大逆転で制した石破氏は、総理に就任して国会の代表質問に立つと一転、「国民の間に様々な意見があり、更なる検討をする必要がある」などと、これまでの総理をそのままなぞるような消極的答弁をし、物議を醸した。 加えて総裁選中の姿勢を大きく転換して衆議院をあっという間に解散して総選挙に突入。政治とカネの問題の問題が、赤旗による「2000万円問題」スクープを経て再燃したこともあり、結果的に選択的夫婦別姓の問題は急にしぼんでしまった感は否めない。 選択的夫婦別姓に対して最も強気だった小泉氏は、早々と選対委員長の座を辞し、去り際には「(選択的夫婦別姓問題について)党内で理解者が圧倒的かというと、むしろ半々かそれよりも少ない。壁は厚かった」と吐き捨てた。 自民党大敗の結果を報じる新聞報道に目を通していたら、「政権が直面する主な政策課題」のリストの中に、「選択的夫婦別姓」の文字は見当たらなかった。政治改革の分野に「裏金問題の実態解明」とあるのは当然のこととして、外交分野に「米国の新大統領との信頼関係構築」とあるにもかかわらず、ジェンダー後進国の喫緊の課題であるはずの、そして経済界も含めて対策を求めているこの話題は見当たらない現実に、目の前がクラクラする。 いい加減直面してくれないだろうか。この怒りの矛先を政治家に向けるべきなのか、政治と同じくらいマッチョな政治報道に向けるべきか、もはやよくわからないが、わーっと盛り上がり、だーっと盛り下がったこの問題。先行きは不透明だが、小西さんはそれでも、前向きに受け止めるという。