シンプル構造「正立フロントフォークの分解整備」メンテポイントは?
ゴム部品×金属部品の摺動抵抗低減にはラバーグリス
ここで再確認。新品オイルシールを組み込む前には、オイルシールリップ周辺にラバーグリスを多めに塗って、金属部品との摺動抵抗を減らしてから組み込もう。オイルシール外周にもラバーグリスを塗布し、ボトムケース側のオイルシールホルダーとの摺動性を高めよう。双方ともに乾燥状態だと、オイルシール外周がボトムケースに食い付いてしまい、滑りが悪く正しく水平に打ち込めなくなってしまう。ラバーグリスはシリコン基油をベースにしたグリスだ。シリコン系グリスならゴム部品×金属部品の摺動抵抗低減に最適と言えるだろう。
オイルシールリップを傷めず打ち込む専用工具
インナーチューブの太さに合わせた分割コマを金属ウエイトにセットして、インナーチューブをガイドにスライディングさせながらオイルシールをボトムケースへ打ち込む特殊工具がオイルシールドライバーだ。インナーチューブサイズに合致したコマ(写真の工具セットでは赤い部品)を組み合わせないと、オイルシールが傾いて挿入しにくくなってしまう。
油量指示か?油面高さ指示か?事前に確認しておこう
メーカーやモデル年代によってサービスデータが異なるが、フォークオイルの注入量は、ズバリ「何cc」のときと、オイル注入してからエアー抜きを行い、フルボトムにした状態でインナーチューブの端面から何ミリの「油面の高さ」で決定する場合がある。1980年代の前半以前は容量指示が多かったが、それ以降から現在までは、油面の高さ指示が多いようだ。オーバーホールやオイル交換時には、サービスデータを必ず確認してから作業進行しよう。容量指示の時にはメスシリンダーで計量し、油面の高さ指示のときには、シリンジとパイプを組み合わせた専用ツールを利用するのが便利である。 ────────── POINT ■ポイント1・作業性の良し悪しは作業環境で大きく変わる。作業台と大型万力は環境作りに必須だ ■ポイント2・シートパイプの締め付け固定時にはインナーチューブをフルボトムで回転させながらボルトを締め付けるのが良い ■ポイント3・使い勝手が良い専用特殊工具は購入しよう ────────── 国内外を問わず1970年代後半以降の正立式フロントフォークは、内部の基本構造がほぼ同一で、普及型とも呼ぶことができる。国産車の場合は、KYB製かショーワ製(現日立アステモ製)が圧倒多数なので、バイクメーカー別に外観的なデザインが異なっても、内部の基本構造はほぼ同一のような商品が多い。正立式フロントフォークで高性能を追求した1980年代後半には、スプリングのイニシャル調整機能だけではなく、伸び側、縮み側のそれぞれに減衰力調整機能を持つタイプや、より安定した減衰性能を得るためにカートリッジ型ダンパーを装備したモデルも複数あった。その後、時代の流れがアップサイドダウン=倒立式フロントフォークへ移行したのと同時に、高性能スポーツバイクの多くがフルアジャスタブル仕様の倒立フォークを採用するようになった。それに伴い、正立式フロントフォークは「普及型部品」としての役割を担っている。 ここでは、一般的かつ普及型とも呼べる、正立式フロントフォークを分解メンテナンス時の「注目ポイント」に的を絞りリポートしよう。作業実践で大切なのは、作業スペースの確保だろう。また、口幅が広い万力をセットした作業台があると、作業性は圧倒的に良くなる。ボトムケース(もしくはインナーチューブ)をしっかり固定できないと、内部パーツの分解はかなり困難になってしまう。無理な作業は禁物なので、何とか分解できたとしても、大切な部品にダメージを与えてしまっては、メンテナンスの意味が無くなってしまうこともある。 分解したパーツは徹底的に洗浄しよう。経験者ならご理解いただけると思うが、過酷に作動しているフロントフォークは、我々が想像する以上に汚れやすい部品なのだ。一般的には、オイルシールがダメージを受けてオイル漏れが発生すると、分解洗浄と同時にオイルシール交換、オイル交換などなどを行うことが多いと思うが、街乗り車でも4~5000キロ走行毎にはオイル交換したいものだ。そんな走行距離数でも、旧オイルを抜き取ると真っ黒になっていることに気が付く。つまり、もっと短い距離でオイル交換しても、良いほどなのだ。 組み立て時の注意点は、パーツ洗浄後の乾燥した部品をそのまま組み込むのではなく、例えば、ダンパーシートパイプに組み込まれる接触部分=ピストンリングには、フォークオイルをタップリ塗布してからインナーチューブ内に差し込み復元しよう。樹脂製ピストンリング外周が摩耗している時には、迷うことなく新品ピストンリングに交換することで、メーカー設定の減衰性能を得られるようになる。オイルシールからオイル漏れやオイル滲みが無かったとしても、オイル交換のみ行うことで、想像以上の作動性を得られるのがフロントフォークでもある。積極的なフォークオイル交換を行い、最善のクッション性能を手に入れたいものだ。そして、セッティング変更(油量や油面の高さ変更など)による体感的な違いを覚え、自身の経験則を高めてみよう。
たぐちかつみ