「100年先へ野球をつなぐ」 DeNA日本一、結実した常識にとらわれない強化策
2011年12月の球界参入から13年。プロ野球DeNAはIT大手としての強みをチーム作りに生かしてきた。プロ経験のない専門家によるデータ解析に始まり、日本球界では珍しいポストを次々と新設。26年ぶりの日本一を達成した背景には、変化を恐れない球団の土壌があった。 【写真】プロ野球初の女性オーナー、南場智子氏と笑顔の三浦監督 3位で終戦した昨季、萩原龍大(たつひろ)チーム統括本部長は「今の延長線上に優勝はない」と総括した。そこで今季新設されたのがオフェンスチーフコーチだ。技術指導を行う打撃コーチとは異なり戦略に特化した役職で、アナリスト経験を持つ靍岡賢二郎氏を起用。統計学的見地から選手の貢献度を数値化する「セイバーメトリクス」を基に戦略を立て、シーズンを戦った。 セイバー的観点から得点期待値が下がるとされる犠打数の変化が顕著な例だ。今季はリーグ最少の85個。同2位だった昨季から21個減った。「長打が打てる選手がたくさんいる、うちの長所を殺さないことを考えた」と靍岡氏。結果的に併殺数は増えたが、総得点はリーグトップの522点だった。つなぎのイメージが強かった2番に、オースティンや牧ら長距離打者を置くのも現代野球のトレンド。ポストシーズンでも重量打線は効果的だった。 米大リーグでは主流のメンタルコーチも、22年から常駐させる。スポーツ心理学の第一人者・遠藤拓哉氏の下で培ってきた「感情の浮き沈みをグラウンドに持ち込まない」スキルは、短期決戦で選手たちの能力を最大に引き出した。 17年に創設された、R&D(リサーチ&デベロップメント)グループの貢献も大きい。トラックマン(高性能弾道測定器)などの最新機器で集めた膨大なデータを統計学の専門家らが分析し、チームに還元。「打たれたとき『気合入れろ』で終わりじゃない。客観的データを元にした提案をくれるから、次に生かしやすい」とは守護神の森原。「100年先へ、野球をつなごう」という理念の下、慣習やセオリーにとらわれない斬新な発想がチームの進化を支えた。(川峯千尋)