POP YOURSルポ、ポップカルチャーとしてのヒップホップが息づく場
熱狂のDAY2
DAY2はKaneee、7、Campanellaからスタート。昨年のゲスト出演から着実にステップアップしたKaneee、Lizaとのコラボが最高のヴァイブスを生んでいた7、すばらしいスキルでさすがのパフォーマンスを見せたCampanella。三者三様のステージから始まり、NEW COMER SHOT LIVEではCFN Malik、taro、swetty、lil soft tennisが登場。このあたりは、POP YOURSならではの幅広い音楽性が聴ける独自のカラーを感じる。中でも、SoundCloudとTikTokで特大バズを生んだswettyが、高校生ながら幕張のステージに立ったのは感慨深い。彼が所属するVANDE GEEKは、J1rockらも所属する注目のコレクティブ。POP YOURSの絶妙な視点でのフックアップが光る一幕だった。 次のElle Teresaは、ピンクのウィッグをかぶりダンサーたちとともにキュートな舞台を見せる。あらゆるナンバーが次々と繋がれ、会場はハイテンションに。DAY1のLANA同様、コーチェラなど海外フェスのステージングを参照したような華やかなショウが映えている。続くDADAは、「Highschool Dropout」はもちろんのこと、「Satsutaba」をプレイしたことでフロアは熱狂。一方、直後のDaichi YamamotoとSIRUPはR&Bのヴァイブスを披露することで変化をつける。2日間で5回のステージに客演したことを誇るDaichi Yamamotoも、観客に対して政治参加を呼びかけていたSIRUPも、MCを絡めつつ最高のパフォーマンスでハートをつかんだ。 続くkZmは、2日間の中でもトップクラスの驚異的な盛り上がりを生んでいた。「Dream Chaser」や「DOSHABURI」などヒット曲を多く抱えていることもそうだが、アリス・ディージェイ「Better Off Alone」使いでダンサブルにアゲたり、Gliiicoとの隠れた名曲「Jordan11」でサイケデリックに攻めたりと、手数が豊富で飽きさせない。一昨年の出演時は早い時間帯のスロットに置かれたことでMCで苦言を呈していた彼だが、ハイな空気の作り方ととてつもない歓声は、来年以降のヘッドライナーもあり得るのではと感じた。 続いて、サプライズで現れたKaneee、Kohjiya、Yvng Patraが「Champions」でマイクリレーを聴かせたのち、CreativeDrugStore、tofubeats、Yo-Seaと立て続けに独自の個性を携えた面々が登場。このあたりはPOP YOURSの戦術が見事ハマり、DAY2の中でも前半と後半の時間を繋ぐ重要な役割に。特に、tofubeatsの「nirvana」や「水星」といったナンバーは、箸休めにはぴったりのチルな空気を生んでいた。 さて、ステージはWatsonへと繋がれ、ここから一気にPOP YOURSは終盤の盛り上がりへと進んでいく。サブスクリプション・サービスから姿を消した「MJ Freestyle」ですら、皆が歌詞を覚え熱唱する盛り上がりに驚いた。会場中にこだまする言葉の応酬は、日本語ラップとしての系譜を正しく受け継ぐWatsonならではの光景で、思わず胸が熱くなる。IOの「TOKYO KIDS」も同様で、さらには次のJin Dogg「街風」や千葉雄喜「チーム友達」もそう。皆が口ずさみラップする、みんなの歌としての日本語ラップがこの何年かでさらに浸透していることを痛感した。 盛り上がりは加速する。ralphとguca owlは、自身の感性に集中するようなストイックなプレイで、内から沸き出る悲哀を表現。特段派手な演出をしなくとも、パフォーマンスだけでこれだけ求心力を持つことができるラッパーは、ほんの一握りに限られる。観客が見惚れる中、ついにPOP YOURSはフィナーレへ。Tohjiの登場だ。Lootaとともに「Yodaka」「Iron D**k」といった曲で圧倒的な世界観を作り上げ、仲間とともにMall Boyzを盛り上げ、「Super Ocean Man」のようなレイヴィなナンバーでは期待通り会場を躍らせる。完璧なショウだった。そこには、ラップ・コミュニティに集う多くのリスナーが見てきた夢が、一つの理想的な形として表現されていた。まだパンデミックが始まる前、彼が「Platina Ade」「HYDRO」といった小規模のイベントでコミュニティを形成し始めていた時期から考えると、随分遠くまで来たように感じる。彼が作り上げたシーンが成熟したことを実感しつつ、踊り狂う観客を眺めながら、2日間の疲れとともに様々な記憶が甦った。つい5年ほど前に、誰がこのような未来を想像していただろう。Tohjiは、一つのマイルストーンを成し遂げたのだ。 2024年、この国のヒップホップは間違いなく次のステージへと突入したように思う。BAD HOPが解散し、LEXとTohjiが真にオルタナティブなスタイルで天下を獲った。近年、多様化の一途をたどり、無数のトライブへと拡散していったヒップホップだが、それでも時代を捉えた感性は必ずや大きな光を浴びるということを、LEXとTohjiは証明した。そして、LEXの日本語の扱いも、Tohjiのコンセプチュアルな表現も、長らく呪縛としてあった本場USヒップホップの影響を踏まえつつオリジナルなものとして確立されているのが面白い。2人には、USヒップホップにはない、独自のエスセティックが宿っている。 昨年末までどう出るか分からなかった、次のヒップホップシーンの潮目が動きはじめた瞬間――「POP YOURS 2024」は、後世振り返った際に新たな時代の幕開けを生んだターニングポイントだったと捉えられるだろう。さあ、いよいよ、新時代が始まったのだ。
tsuyachan