POP YOURSルポ、ポップカルチャーとしてのヒップホップが息づく場
躍動のDAY1
まずはDAY1、トップバッターのKvi Babaが「Too Bad Day But...」などで早速の大合唱を呼ぶ。グッド・ヴァイブスな空気であたためたのち、Lunv Loyalが強烈なパフォーマンスを展開。多数のダンサーを引き連れ、地元である秋田のお囃子を取り入れながら魅せるステージは、彼の今後のさらなる飛躍を予感させるようなスケールだった。SEEDAとの「高所恐怖症」は待ってましたとばかりの歓声で迎えられ、会場は大きな盛り上がりに。続いてYvng Patraが、低い声で繰り出すラップの巧みさを存分に見せつける。「Tier1」では、ジャージークラブのビートで軽快に畳みかけ、歓声に包まれながら疾風迅雷の勢いでフィニッシュ。今年もいきなり実力派が立て続けに登場し、会場は午前11時台とは思えないボルテージに。 次は、恒例のNEW COMER SHOT LIVE。新進気鋭の若手を紹介する枠だが、広島のJAKEN、名古屋のクルー・L.O.S.Tといったラッパーがフィーチャーされた。最も歓声を浴びたのはKohjiya。TV番組『ラップスタア 2024』の活躍で大きな注目を集めている彼のパフォーマンスは実に堂々としたもので、すでにNEW COMER SHOT LIVEにおさまりきらない存在感を発揮。「次はラップスタアのファイナルで会おう」という去り際のMCには、大きなレスポンスが巻き起こっていた。 ピーナッツくんは「笑われに来たんじゃなくてカマしにきました! そして、輝きに来ました」と叫び、内に秘めたヒップホップ魂を爆発させる。途中、謎の黄色い覆面集団――PAS TASTAのメンバーたち!――が出現、エレクトロニックなビートで幕張メッセを沸かせた。ハッピーな空気が漂う中、続けざまに鎮座DOPENESSがスケートボードに乗って颯爽と出現。自由自在なラップとともに途中友人の子どもをステージに呼び、ピースフルな展開で会場の空気を掌握。最後の曲では観客やセキュリティともダンスし、「地球、日本、千葉、幕張」と叫びまたボードに乗って消えていく、というユニークなステージ。自由奔放だが巧みに練られた表現に、多くの人が釘付けだった。若手が続くこのスロットにあえて彼を置いたPOP YOURSの読みは、ズバリ的中。間違いなくMVPの一人だった。 怒涛のラインナップが続く。次はMFS。「BINBO」で振動する低音を響かせながら、昨年同様ダンサーとともに華麗にスタートを切った。とにかく華やかで、ダンサブルな舞台に観客も皆自然と体が揺れる。続くBonberoは、とにかくラップのスキルが格別。ここまでのステージで、最もキレのある生のラップを聴かせた。「Swervin」を筆頭にリリックが抜群に聴き取りやすく、言葉の一つひとつがストレートに届く。ヒップホップのカッコよさがシンプルな形で伝わったのか、フロアはグッと引き締まった空気に。多様性に富んだアクトが揃う中で、彼のような存在は節目に必ず必要であると改めて感じた。その後のRed Eyeは、観客との駆け引きも絡めながらさすがのステージングで猛烈に存在感をアピール。「悪党の詩(Remix)」ではD.Oを呼び、最後にはヒップホップアーティストとして史上最年少での武道館ライブの告知を行なうことでBAD HOP解散後のキングの座に名乗り出た。 JUMADIBAはいつもの通り飄々とした表現で、印象深いVJとともにメインストリームとオルタナティヴの架け橋になるグルーヴを見せつけた。最新EPからプレイされた「paypay」や「静かに叫び」といった曲は、Day1全体のセットリストに多彩な味わいを与える、絶妙なニュアンスで表現されていたように思う。ただ、パフォーマンスは見事な出来だったものの、DAY1の客層とはややフィーリングに乖離があったかもしれない。Tohjiやlil soft tennisらが出演したDAY2であれば、恐らく大盛り上がりだったのではないか。この辺りは、音楽性が多岐に渡るPOP YOURSだからこそ企画側にとっても采配が難しいところだ。続くOZworldは、「畳-Tatami-」「RASEN in OKINAWA」「Peter Son」「MIKOTO~SUN NO KUNI~」等の人気曲を連発し、鋭い構成力で魅せる。彼のようなユニークな作品を作り続けるラッパーが大歓声で迎えられているというのは、すばらしい光景だ。 ここで、YENTOWNがサプライズ出演。リリースされたばかりで話題を呼んでいる「不幸中の幸い」を披露、そのまま「TEENAGE VIBE」や「GILAGILA」といったヒット曲を繋ぎ、役者揃いのクルーの魅力をアピール。歓声が途切れることなく続く、さすがの人気を体感した。 その後STUTSも多くのゲストを呼び、次から次に演者が移り変わる楽しさを提供。中でもハイライトは「サマージャム’95」と「Summer Situation」に続き、新曲「Pointless 5」で見せたスチャダラパーとの共演。STUTSからスチャダラパーへの愛が伝わる内容だった。続くJP THE WAVYは、昨年に引き続きダンスをまじえたショウを展開。「Cho Wavy De Gomenne」をオープニングに配し「Neo Gal Wop」で火をつけた導入は、WAVY史をおさらいするような構成で会場中に喜びの悲鳴が。そのままLANAに突入し、ヒット曲メドレーで息もつかせぬ展開に。ダンサーがLANAを担ぎ運ぶディーヴァ・ショウは、大きなインパクトを与えた。「私がラッパーなのかそうじゃないのかっていう話があると思うんだけど」と切り出した彼女は、「私はラッパーではない、ヒップホップをやってる人」と宣言。演歌やソウルといったヴァイブスを感じさせながら、ラップも歌も絡めながら跳ねるようなボーカルでリズムを刻むLANAは、確かに“ラッパー”という括りではおさまりきらないタレント性がある。こういった発言に拍手が起きるのも、POP YOURSというフェスが持つ懐の深さだろう。 躍り騒ぎ疲れたフロアに向けて、続くJJJとは色気香り立つラップでくらくらさせノックアウト。特に、前者の「YW」、後者の「LONELY NIGHTS」は新旧のアンセムとして観客の体を揺らしていた。さらには、KEIJUが「Not 4 Me」からTRIGA FINGA「GYAL IS EVERYTHING」へと繋いだ流れは一つのハイライトだった。渋さ極まるラップは、次のOZROSAURUSでさらに研ぎ澄まされる。クラシック「AREA AREA」でフロアをロックし、「30分しかないからさ。喋りに来たんじゃない、がっつりラップ聴かせるよ」と伝え怒涛のスキルを披露。精神性やリアリティといった総合力で、2日間通して圧倒的な力量を見せていた。 OZROSAURUSがラッパーとして完璧なステージを見せつけただけに、この後に続けるのは相当やりにくかったはず。しかし、今年のトリはやはり一癖ある。LEXは型にはまらないスタイルのラッパーだからこそ、比較の俎上に乗らない。「GOLD」で「もっと上へ」と歌う彼は、宙吊りになりながら文字通り舞台を上へ上へと上昇。JP THE WAVYとの「もう一度キスをして」や「なんでも言っちゃって」、KEIJUとの「Mama’s Boy」、そして妹・LANAとの「明るい部屋」などで圧巻のステージを見せた。LEXは終始ロックスターのようで、演出は凝っており作り込まれているものの、どこか気まぐれでルーズな空気をまとう。その危うさが魅力で、「STAY」の表現などはやはりカート・コバーンを彷彿とさせるし、エモ・ラップの潮流と共振しながら頭角を現した彼ならではのスタイルがしっかりと伝わるステージに感じた。