4階級上の体重だったネリの暴挙に汚された元名王者山中慎介のラストマッチ
山中の異変に気づいたネリは、かさにかかって攻めてきた。左フックをまともに食らってダウン。山中は立ち上がったが、ラウンド終了後、戻るコーナーを一瞬、敵側と間違えた。それほどダメージが大きかったのだ。 2ラウンドは、もう残酷なショーだった。振り回してきた左フックに尻餅をついた。立ち上がったが、また右のジャブをもらってダウン。「OK! OK!」。リングサイドにまで聞こえる大きな声で山中はレフェリーに試合続行をアピールしたが、右フックで仰向けになってキャンバスに寝転がるとTKOが宣告された。 ネリがコーナーに上がって歓喜の雄叫びを上げたが、場内は再びブーイング。 「二度と日本に来るな!」「次は井上尚弥とやって倒されろ!」。激しい野次が飛んだ。 そして慎介コールが波のように両国国技館を包んだ。 わずか243秒で、山中とファンのネリへの雪辱の夢は打ち砕かれた。だが、山中がリングを降りるまで誰も席を立たなかった。“汚れた反則野郎”を相手に勇敢に戦った“ゴッドレフト”への拍手がやまない。まるでカーテンコールのように。ネリは、倒れた山中に抱きついてきたが、そこにいつものノーサイドはなかった。山中は憮然とした顔で睨んだままだった。 体重に応じた階級制のスポーツで、こんなやり方がまかり通っていいものか。 しかも、昨年8月の試合では、禁止薬物の使用疑惑まで起こしているのである。 ジムの後輩であり、南京都高校(現・京都廣学館高)の後輩でもあるWBAミドル級王者、村田諒太は「僕でも相手が(計量オーバーして)75キロでくるならやりたくないですよ。でも興行を潰せないので逃げられません。その中で戦う男と体重オーバーで勝っている男とどちらがかっこいいですか。ボクサーだからわかる恐怖に負けずに戦った山中さんはかっこいいと思う」と、すべての人の怒りを代弁した。 かつて山中と語り継がれる日本タイトルマッチを戦ったIBF世界Sバンタム級王者の岩佐亮佑(セレス)も初防衛を終えた後に涙ぐみながら「あれだけの失態をして勝って喜んでいる。あいつ、どんな神経してんだ? ボクサーの中で一番尊敬できない。ボクシング界から去って欲しい」と、ネリに怒りをぶつけた。 控え室で山中は何度も涙した。 ファンへの感謝、家族への感謝。連続防衛の日本記録をドーピング疑惑のネリにストップされた失意のTKO負けから、再起を決め、このリングに向かった自分を「誇りに思う」と言った。 だが、ネリの計量失格だけは許せない。 「試合だけに関してはただ僕より強かった。でもルールがある。人として失格。いらつきは納まらない。これからは、ちゃんとして欲しいし、ボクシング界全体で(計量失格に対して)もっと厳しくして欲しい」 ネリのパンチ力は「効くパンチは見えない。それをもらって慌てた部分もあるが、3回倒れているんで。パンチは、以前より(あるように)感じた」という。 それは、ネリが体重超過してきた影響か、と聞くと、極力オブラートに包んで、こう答えた。 「まったくないとは言えない。だからこそ、ボクシング界全体のルールを団体関係なくしっかりと統一して厳しくしないとファンも納得いかない」 山中の当日の体重は、59.2キロ。頬がこけギリギリに絞ってからの増量と減量に苦しまない増量では、回復度が違ってくる。ネリは、計量当日に計1.7キロを落としたが、本気で減量してきたボクサーは、この段階では、数百グラム単位でしか落ちないもの。栄養士に責任をなすりつけていたが、やはり確信犯だったのだ。 まるで合法の“体重ドーピング”である。