東洋エンジニアリング、「生産性6倍」への挑戦とDX推進部長の葛藤
グローバルで大規模プラント建設を手掛ける東洋エンジニアリング。2019年にDXを推進する部門を立ち上げ、「2025年度までに生産性6倍」というビジョンを打ち立てた。しかし、建設業界には特有の保守性や複雑さがあり、生産性はなかなか上がらない。さらには、変革が進むほどDX部門の負荷が増大する。課題を解決するために行った2つの施策、そしてその先にあるものとは?(ノンフィクションライター 酒井真弓) 【この記事の画像を見る】 ● 2019年、「DXって知ってる?」とメールが届いた 「DXって知ってる?」 2019年、マレーシアの現場の最前線で働く瀬尾範章さんのもとに、当時のCDO(最高デジタル責任者)から一通のメールが届いた。どうやら瀬尾さんを日本に呼び戻し、一緒にDXを推進したいらしい。5年以上海外赴任していた瀬尾さんはこのとき、日本に流行るDXという言葉も、本社がそのDXに乗り出していたことも知らなかったという。 なぜ、瀬尾さんに白羽の矢が立ったのか。理由は定かではないが、思い当たることといえば、この前にIT部門が主導したデジタル化が暗礁に乗り上げたことだ。本社にいるIT部門からは現場の課題が見えにくく、本音も引き出しにくい。そこで、現場を熟知し、かつリーダーシップが取れる人材が求められた。 瀬尾さんはMBAホルダーで、現場ではプラント建設技術に加えてビジネススキルを重視していた。「お客さまとの関係性の作り方一つで、同じ仕事でも難易度が大きく変わる」と考え、自主的に若手向けビジネススキル研修も実施。この取り組みが当時の社長の目に留まり、褒めてもらったこともあったという。現場との信頼関係が厚く、経営層とも対等にコミュニケーションできる瀬尾さんなら、何か変えてくれるに違いない。そう期待されたのではないだろうか。 帰国し、DXについて調べ始めた瀬尾さんは、デジタル活用やシステム刷新など、技術が主役になりがちなDXに、違和感を覚えたという。 「現場では、プラントを作る技術があっても、ビジネススキルがなければ、アウトプットは0にもマイナスにもなると痛感してきました。重要なのは、技術とビジネスの掛け算です。DXも同じ。いくらデジタルがあっても、ビジネスが0なら、0にしかなりません」(瀬尾さん)