インディーズアーティスト日本一はスネアカバー 10日ドイツ世界大会へ
エマージェンザ・ジャパン2017決勝戦が7月8日、Shibuya TSUTAYA O-EASTで開催された。インディーズ・バンド、アーティストの世界一を決める世界最大のコンテストの日本大会を制したのは、北海道出身のソロアーティスト、スネアカバーだった。
ソロでバンドにどう対抗? ハンディをチャンスに変えていく
今年4月から東京、大阪で始まった予選、準決勝を経て、決勝戦の舞台に立つことが許されたのは13組。得票数は聴衆の挙手の数だ。聴衆は良いと思ったバンドの演奏後に手を挙げる。決勝戦では、準決勝での得票数順に演奏時間枠を選べる仕組みになっており、得票数が高いバンドは聴衆が集まりやすく、盛り上がりも最高潮に達する時間帯を確保していた。お目当てのバンドの出演時間に合わせてくる人が多いため、早い時間帯での演奏は比較的不利だ。 スネアカバーが出演したのは、開始から3組目。私生活では猫の保護活動をしている「わさびちゃんちの父さん」として知られるスネアカバーこと斎藤洸(さいとうたけし、Vo/G)を応援するため、この日、全国からファンが集結、フロアの前方を埋め尽くしていた。
後半のバンドの応援のために遅くやって来る人達もおり、まだ全体的にはエンジン稼働半ばといった時間帯だ。しかし、決勝戦出場バンドの中でも唯一のソロプロジェクトであるスネアカバーの斎藤がステージに立ち、アカペラで童謡の『赤とんぼ』を歌い始めた瞬間、場の空気が一変した。ロックミュージックのコンテストで童謡という、意表をつく選曲というだけの話ではない。その抑揚のある澄み渡ったヴォーカル・ハーモニーに、会場全体が息を呑んだ。 完璧な音感と美声で聴衆の心を一気に奪ったスネアカバーは、続けて血が沸き立つようなテンポのいい『朝焼け』、メロディアスでキャッチーな『地球』、斎藤自身が長年大切にしてきたという『We』を歌い上げた。 スネアカバーはもともとはバンド編成で始まったが、紆余曲折を経て今は斎藤ひとりのプロジェクトとして活動している。バンドの多くがヴォーカルとギターに加え、ドラムやベース、キーボードといった楽器で音に厚みを出していく(今回の決勝戦では和楽器を使ったバンドもあり、注目された)。 ソロのスネアカバーにはハンディがあるようにも思われた。そもそも、ソロアーティストがエマージェンザの決勝戦まで進むのは、今回のスネアカバーが初めてなのだ。ソロでは音の厚み、表現の幅に限界がある。ステージもひとりでは広く感じる。 ところが、斎藤にとってそれはハンディではなく、むしろチャンスだった。ソロだからこそできることを模索し続けた。キックドラムを使ったり、ギターのボディを手でたたいたりして、使える音を増やしつつ、ループステーションでその場で歌うヴォーカルとギターを録音し、音源を送ってループさせることで声や音を重ねていく。音の広がりは、そのままステージ上でのパフォーマンスの広がりになる。 「バンドミュージックを諦めざるを得なくなって、それでも音楽を続けたかった。そんな中で、どうやって楽しむかを追求していって見えてきたのが今のスタイルなんです。それに、ソロになったことでちゃんと聴衆の声が聞こえて、それが嬉しくて。楽しませたいという思いと、楽しみたいという思いと。ステージを作り上げていくという考え方が変わったかもしれません」 たったひとりだから辿り着いた音とメロディ。そして圧倒的なヴォーカル。それが今のスネアカバーの強みだ。その強みを最大限に生かせるよう調整に調整を重ねて決勝戦に挑んだ。言葉以上の意志疎通を体感して、より磨かれたスネアカバーの力は、もはや「愛」としか表現のしようがないような気がした。 結果、優勝をもたらした。