〈五輪サッカー〉なぜFIFAやクラブはオーバーエイジに消極的なのか
翻って五輪を重視する中南米やアフリカは、オーバーエイジ行使にも積極的だ。ロンドン五輪ではブラジルがフッキ、マルセロ、チアゴ・シウバと2年後の母国開催のW杯で主力を務める3人を招集。ウルグアイもルイス・スアレス、エディンソン・カバーニがメンバーに名前を連ねた。 オーバーエイジの歴史を振り返れば、アトランタ五輪のブラジルはリバウド、ベベット、アウダイールのW杯優勝メンバーを登用(このブラジルに日本は、1次リーグで勝利しマイアミの奇跡と呼ばれた)。アルゼンチンもディエゴ・シメオネ、ファン・ロマン・リケルメらをメンバーに加えてきたし、2000年のシドニー五輪を制したカメルーンはパトリック・エムボマを招集している。 同様に五輪を重視してきた日本は、歴代監督に決断が委ねられてきた。アトランタ五輪は西野朗監督が若手の育成を目的として行使せず、シドニー五輪で、楢崎正剛、森岡隆三、三浦淳宏と唯一3枠をフル活用したフィリップ・トルシエ監督からは後に意外な言葉を聞いた。 「オーバーエイジを行使したことを後悔している」 3人の合流が大会直前だったゆえに、若いチームへ順応するのに時間がかかったことが理由だった。 さらにJ1のチーム数が、18に増えたことに伴い、2008年の北京五輪からは五輪開催期間中もリーグ戦が行われるようになった。 オーバーエイジで選手を供給するクラブは最大5試合、主力を欠いてリーグ戦に臨まざるを得なくなる。優勝及び残留争いに大きな影響を及ぼしかねないだけに、当然ながらクラブ側も慎重になる。 北京五輪は、反町康治監督が望んだ遠藤保仁がウイルス性肝炎を患い、大久保嘉人は当時所属していたヴィッセル神戸に招集を断られたために、最終的にはオーバーエイジなしで臨んでいる。 前回のロンドン五輪からは、オーバーエイジを含めて1クラブから3人までという招集上限が設けられ今回に至っている。 こうした状況下で、手倉森監督はオーバーエイジ派遣手続きが締め切られる6月10日の直前まで人選を行いたいと強調する。 「送り出す側、送り出される側、迎え入れる側の3つの感情が正しい方向で合わなければ、例えいい選手であっても空回りせざるを得ない。そこも整えてこそのオーバーエイジなので。それには時間が必要です」 W杯と五輪の挾間で、妥協の産物として生まれ、召集に制限のあるオーバーエイジ枠をどう使うのか。手倉森監督の手腕に注目である。 (文責・藤江直人/スポーツライター)