〈五輪サッカー〉なぜFIFAやクラブはオーバーエイジに消極的なのか
もちろんIOCは部分的な解禁では満足しない。そこで妥協案としてFIFAが提案したのが、「23歳以下」という条件付きでの全面解禁だった。すでに存在していたU‐17 W杯、U‐20 W杯に続く年代別の世界選手権を創設できるメリットがそこにはあった。 実は「23歳以下案」はソウル五輪から提案されていたが、IOC側が拒絶した経緯がある。五輪競技からのサッカー撤退も辞さないFIFAの強硬姿勢に屈する形で、1992年のバルセロナ五輪から年齢制限が導入されたが、肝心の観客動員数が過去の大会を大きく下回ってしまった。 開催国スペインが金メダルを獲得したにもかかわらず、平均観客数は約1万4000人。原因をスター選手の不在と分析したIOCは再びFIFAと交渉を開始し、1996年のアトランタ五輪からのオーバーエイジ枠創設を勝ち取るに至った。 ここまでの経緯を踏まえれば、FIFAにとって五輪は「23歳以下の世界大会」以上のものではないことがわかる。当然ながら、世界のサッカー界の中心をなす欧州で、絶大な権力を握っているUEFA(欧州サッカー連盟)もFIFAと歩調をともにする。 実は、欧州大陸には五輪予選が存在しない。奇数年に本大会が開催されるU‐21欧州選手権が五輪予選を兼ねる。例えばリオ五輪にはスウェーデン、ポルトガル、デンマーク、ドイツが出場するが、昨年のU‐21欧州選手権本大会でベスト4以上に入った4ヶ国の選手全員が出場できるわけではない。 U‐21欧州選手権は予選から2年間をかけて頂点を争い、本大会を戦う時点で彼らは「23歳以下」となる。つまり、五輪イヤーには24歳になっている選手も存在しているが、UEFAはまったく意に介さない。 五輪イヤーには欧州王者を決める欧州選手権も開催される。言うまでもなく、ステータスは欧州選手権が上。IOCの熱意の前に妥協した産物でもある、オーバーエイジ枠に対する関心も必然的に低くなる。 例えば前回のロンドン五輪。イングランドとウェールズによる合同チームを結成し、52年ぶりに誕生した「イギリス代表」へオーバーエイジで招集されたのはウェールズのライアン・ギグスとグレイグ・ベラミー、イングランド代表のマイカ・リチャーズだった。 特にウェールズ代表ゆえに国際大会に縁がなかった2人のベテランの招集は喝采を浴びたが、戦力的には疑問符がつく。開催国の期待を背負ったチームは結局、準々決勝で韓国に屈して姿を消している。