子ども時代に「ディズニーランド」に行ったことがあるかどうかで全然違う「格差の実態」
習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。 事例5:泣きながらやったピアノ 菊池彩さん 長男(小学生)・長女(小学生) 菊池彩さんは二人の子どもを育てながらパートで働いている。昨年からある資格の取得を目指して勉強を始めたという。 ──何の資格を目指しているんですか。 社会保険労務士です。去年から勉強し始めました。今年は合格率が5%で、仕事や子育てをしながらも自分としてはできる限りやって臨んだんですけれど、まだまだでしたね。10科目で満遍なく点数を取らないといけなくて。不得意科目をつくっちゃだめなんです。 問題の内容も、「未満」か「以下」かとか、「義務」か「努力義務」かとか、覚えることがたくさんあります。試験が1年に1回しかないのもプレッシャーですね。今年は力及ばずでした。また1年がんばります。 ──なぜ社労士の資格を取ろうと思ったんですか。 今はある会社の人事でパートとして働いていて、給与計算とか退職金の計算とかをしています。環境はとてもいいし、やっていることも大好きです。 時給は最低賃金のちょっと上ぐらいです。週3から週5で、月収は8万から10万円くらいですね。時間帯は日によっても違いますが、朝に子どもを学校に送り出してからなので、9時半から16時ぐらいまでです。 資格の勉強を始めたのは、子どもを育てるにあたって「今よりお金が上がったらいいな」という気持ちも少しはあるんですけど、それよりも「リストラされたら困る」という気持ちのほうが大きいです。 社労士は国家資格だし、もしそれが取れたら、リストラの列に並ぶ一番最後にしてもらえるかなって。パートから社員に立候補するにしても、資格があったほうがしやすいかなって。前例はないんですけどね。 ──今の仕事を失いたくないという気持ちが強いわけですね。 そうですね。今は元の夫から養育費を受け取れていますが、それがいつどうなるかわからないという不安もあるので。 ──現状の収入は給料と養育費以外にありますか。 あとは公的な手当ですね。児童手当、児童扶養手当、自治体からの手当があります。貯金は増やせないけれど、減りもしないというところで何とか収めたいと思っています。 ただ、児童扶養手当が18歳までで、今は本当にそれに頼っているので不安です。今年は長男が10歳の年で、あと8年で手当が減り始めます。そういう不安もあって、社労士の資格を取っておこうって。自力で稼げるようにしておかないと。 ──お仕事は離婚のタイミングで始められたんですか。 そうですね。大学を出た後に新卒で入った会社でも人事の仕事をしていたんですが、結婚したあとに一度辞めていて。離婚を機に再び働き始めました。 働くのは自分の精神的にもいいのかなと思っています。働かなければ、子どもたちと朝から晩まで一緒です。どうしても親子3人で近い関係になるので、物理的に離れるというか、接触時間を短くするほうがうまくいくのかなとちょっと思っていて。 子どもが小さい頃も、働いている間は保育士さんたちに見てもらえたのが良かったですね。今でも、家にいるといつの間にか3人がみんなソファに集まってきて一緒に座ってたりするんですよ。毎日暑いのに。だから、家から出る時間をつくったほうがいいなって。 ──大人にとっても、子どもにとっても、それぞれの時間をつくることは大事そうですね。 小学生になったので、公園でも児童館でも自分で行けます。上の子は自転車に乗れるようにもなりました。今年のお正月に練習したんですけど、大好きになって毎日乗り回しています。自転車は元夫が買いました。 上の子が特に児童館が大好きで、休みの日に行ったりしています。体育室で遊べたり、図書室で本を読んだりできます。予約すれば、クッキングとか、街の探検隊とか、イベントにも参加できて。工作系とか、映画を観たりとか。 児童館は交通費や材料費以外はすべて無料なので助かっています。食費だったり物の値段がどんどん上がっていて、切り詰めるとしたらやっぱり遊びに行くお金からになってしまいますね。給料は全然上がっていないですし。 ──お子さんたちと父親との関係は続いていますか。 はい。月に一度の面会交流があります。いつもファミレスなんですけど、希望すれば焼肉にもお寿司にも行けます。費用は元夫が出します。私が外食に連れていくのは無理なので、子どもにとっては重要な体験ですよね。 子どもたちは父親が好きだし、父親であるっていうのは変わりがないので。どこかに連れていってもらったり、何かを買ってもらうのも好きですし。だから、私が関わりたくないからといって勝手に関係を切ってしまうのはね、違うのかなと。 お金のことも、「母にお金がない」という事実だけを知ってると子どもたちも不安になるじゃないですか。「父にはある」とわかっていれば、何かあったときに助けてもらえるという気持ちになるかなって。 ほしいものがあるときも、二人はあまり我慢せずにとりあえず言いますね。「だめだと思うんだけどさ」みたいな前置きはありつつ。 ──父親との関係で子どもたちができている体験というのもあるわけですね。 例えば、上の子は小学校に上がるときに私がディズニーランドに連れていきました。やっぱり1回行ったことがあるのとないのとでは全然違うと思って、経験させてあげたくて。 下の子は今度の面会交流でディズニーランドに行くことになったので良かったと思っています。そういう意味では元夫に感謝です。ディズニーランドのチケットも昔に比べてだいぶ高くなりましたよね。1万円を超えてるときもあって。 キャンプとかバーベキューとか、アウトドア系もさせてあげたいんですけど、色々と物を準備しないといけなかったり、車がないと不便とか、自分ではハードルが高くてできていないです。 つづく「泣きながらピアノを習っていた…親が子ども時代にどんな「体験」をしていたか」では、親自身が子どもの頃にどのような習い事をしていたのかなどを深堀りする。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)