活況の「退職代行」、サービス提供の弁護士にもジレンマ 「慎重に決断して欲しい」と語るワケ
●退職を言い出せず、自死する人もいる
竹内弁護士は、退職代行サービスについて、「会社を辞めたい人の退職を後押しする“身近”なサービス」と表現する。 「辞めたいなと思ってるけど辞められない、あるいは辞められないものと縛られている人が、思い悩まずに利用できるように生まれたサービスだと思うんです。 たとえば、キャリアアップできるチャンスなので退職日を絶対に死守したい、引き止められたり退職届を受理されないと困ると悩んでいる、転職活動に時間を割きたいから退職のためのやり取りをしたくないなどの理由で利用してもらってもいいと思います」 退職代行サービスが受け入れられ始めている背景には、「サービスを利用しないと辞められないような企業が実在するなら、そこまで苦しむ必要はないのでは」という認識が世間に広まったからでは、と分析する。 「『退職代行なんか使って会社を辞めることは恥ずかしい』と思わずに、サービスを使えるようになってきたことは、本当に悩んでいる人にとっては良いことだと思います。 『退職したい』と言い出せないがために追い込まれて、自死された方もいます。そんな社会に対して、そこまで思い悩む前に、自分の人生観で退職が妥当だと思った時には身構えずに退職代行サービスを使って辞めればいいんだよ、ということを私もずっと伝えてきました」 しかし、「退職することの意味が変わったわけではない」と釘を刺す。 「思い悩んで一刻も早く辞める必要があるとしても、退職すれば『明日から無職』です。本人がその事実と向き合わなければならないのは、退職代行を利用したとしても同じです。 退職した後のビジョンを持つ、退職するか否かをきちんと天秤に乗せて検討することの必要性、重要性は少しも変わっていません。 サービスの広がりによって、退職手続きの“身近”さだけが独り歩きしていくのだとすれば、それは恐ろしいことだと思います」
●“身近”のジレンマ「辞める辞めないの判断は本当に難しい」
竹内弁護士も、退職代行サービスを提供していて、どう“身近”であるべきかを悩むことがあるという。 「就職1年目の人から辞めたいと依頼されたら、『職場環境や条件がすべて良い職場なんてそうあるわけじゃないよ。色々頑張った結果もう無理なの?まだ1年目で研修受けただけでしょ?』とお節介だとわかってても、思うことはあります。 依頼者にしても、依頼された側はそんな余計なことを考えず、ポンポンと自分を辞めさせてくれればいいと考えているかもしれません。 退職代行サービスを使うか否かでは悩んでほしくない。その意味では“身近”でありたい。でも、辞めるか辞めないかの判断要素は大抵複雑で、本当に難しいです。 私が辞めない方がいいのではと思っても、言い方を間違えれば、『あ、やっぱり退職代行を利用してはダメなんだ』と誤解されるおそれもあります。 一人ひとりと向き合うサービスである以上、画一的な正解はないと思います。『きちんと将来のこと考えてる?』というお節介心を忘れずに、『何も考えずに退職できる』ことを後押しするようなサービスにはしたくないですね」 【取材協力弁護士】 竹内 瑞穂(たけうち・みずほ)弁護士 大手企業内部の労働問題の解決だけでなく、自身の経験を活かし、弁護士による退職代行のパイオニアである小澤亜季子弁護士とともに退職・辞任に関する様々な問題の解決に尽力している。また、特許事務所での勤務経験から特許、商標などの知的財産権にも精通している。 事務所名:赤坂山王法律事務所 事務所URL:https://mizuho-rlo.themedia.jp/