【社説】寄付控除の悪用 政治家のモラルの問題だ
政治家が税制の優遇措置を悪用するようでは、国民に信頼されるはずもない。 国会議員が自ら代表を務める政党支部に寄付をして、所得税の控除を受けていた事例が次々と明るみに出た。全容はうかがい知れない。 違法とは言えないものの、個人献金を促すための制度を政治家が使うことは著しくモラルに反する。 最初に発覚した自民党の菅家(かんけ)一郎衆院議員(比例東北)の場合、安倍派の政治資金パーティーで生まれた裏金を寄付していた。 菅家氏が代表を務めていた自民党支部への寄付のうち、1289万円は派閥から還流を受けた裏金で、政治資金収支報告書に記載していなかった。これで約148万円の税控除を受けたという。 違法性のある裏金を政党支部に移して利益を得るとは、不適切にも程がある。 この他に自民党の稲田朋美衆院議員(福井1区)、平井卓也衆院議員(比例四国)、福岡資麿参院議員(佐賀選挙区)、立憲民主党の吉田統彦衆院議員(比例東海)が同様の手法で税控除を受けていたことが分かっている。 与野党を問わず、各党は所属議員の実態を把握し、公表すべきだ。該当する議員は進んで名乗り出てもらいたい。 個人が政党や政党支部に寄付をすると、租税特別措置法に基づき、税額控除か所得控除が受けられる。寄付に税制優遇措置を設けているのは、国民の政治参加を進め、個人献金を促すためだ。 発覚した政治家の行為が、制度の趣旨から逸脱していることは明らかだ。こうした議員に国民の税負担を論じてほしくない。 政治家が自身の後援会に寄付するなど、寄付をした者に特別な利益が及ぶ場合には税控除の対象とならないが、政党支部については明確な基準がない。この「抜け穴」はこれまでも問題視されていた。 政党支部の資金は代表を務める政治家が管理しており、政治家個人の「第二の財布」と呼ばれる。 政治資金は政党支部、個人後援会、資金管理団体の間で出し入れされているため、政治家個人が握る資金の全体像は非常に分かりにくい。寄付金控除もこうした流れの中で悪用された。 国会では裏金事件を受け、政治資金規正法の改正案が審議されている。寄付金控除問題への対応も余儀なくされたのだろう。自民党が提出した改正案を修正した付則には、政治家が自ら代表を務める政党支部へ行う寄付は、税控除の対象外とすることが検討事項として盛り込まれた。 参院でこの問題を追及された岸田文雄首相は「違法でないが望ましくはない。規正法改正で必要な措置を講じる」と述べた。 認識が甘い。「検討」をうたうだけでは不十分だ。すぐにでも制度の悪用を禁止すべきである。
西日本新聞