連載『lit!』第123回:ビッグ・ショーン、Blu & Exile、ベイビーフェイス・レイ……内省表現やストーリー性で魅せるヒップホップ
Cardo Got Wings、フューチャー……独自の方向性に振り切った作風も
Cardo Got Wings『MADeMAN』 スムースで爽やかなムードのギャングスタラップは、日本に住んでいるとあまり得られないような風とムードを運んでくれる。Cardo Got Wingsの新作『MADeMAN』のカラッとした空気感は、風通しのいい清々しいもので、音楽的な現実逃避を提供してくれる。全体をメロウで浮遊感のあるサウンドでまとめながら、バサバサと切り替わっていくラップの潔さ、タイトに駆け抜けていくテンポ感によって、退屈を感じさせない。「Never 2 Much」(Cardo Got Wings, Seafood Sam)や「Paper」(Cardo Got Wings, Kamaiyah)など、キャッチーな楽曲もところどころに配置され、シンプルながらクセになるような、リスナーの耳に残るコーラスにも溢れている。ラリー・ジューンとタッグを組んだ過去作『The Night Shift』(2023年)などにも含まれるような味わいを、さらに鮮やかに詰め込んだ良作。 フューチャー『MIXTAPE PLUTO』 フューチャーの新作『MIXTAPE PLUTO』は賛否両論を呼んでいる。批判的な声の中には、彼自身が自分のスタイルから逸脱することない、単調な作品と評するものも多い。確かに単調だと思うし、ダークに統一したスタイルはむしろ作品に印象的な場面を用意することができず、自らの作風を薄めて広げたものと言われても仕方ない側面もあると思う。ただ、そのドライな感触、淡々とした展開はまるで一人語りのようで、彼の作品の中でも特に殺伐としたムードを背負っている。ある種の独白のようであり、内省的な色も強く、彼らしいセックスやドラッグの物語に悲観的な影を落とす。メインストリームの中でも浮いた孤独と暗さを携えている本作の感触は興味深い。今年、メトロ・ブーミンとのタッグでリリースされた2枚『We Don't Trust You』『We Still Don't Trust You』と合わせて聴いてみても、その異質さがより際立つだろう。極めてダークなトラップアルバムの怪作。
市川タツキ