ブーイングを拍手に変えたマー君の勝負魂
最大のライバルに認められた
球数が105球となったところで降板したヤンキースの田中将大を待っていたのは、ブーイングではなく、フェンウエイパークの暖かい拍手だった。ゲームは完敗だったが、オルティズ、ナポリというレッドソックスが誇るスラッガーが、連続アーチを浴びせて、一矢は報いた。 レッドソックスファンにしてみれば、いくばくかの満足感もあったのだろう。上原、田沢という日本人がブルペンを固めているため、日本人ルーキーへの特別なシンパシーもあったのかもしれないが、敵地のファンも、田中の逃げずに向かっていく姿勢と、その力強いピッチングに共感を覚えたのだ。フェンウエイでベンチに下がっていく敵チームの投手に拍手が起きるのは、極めて珍しいシーンだった。 試合後には、中2階のインタビュールームが田中のために特別に解放された。普段は、監督会見に使われる場所。創立102年の球場はロッカールームが狭いため(ビジターは更に狭い)、特別に活躍をした自軍の選手や、この日のエルスベリーのように話題があってメディアの取材が殺到する場合に、試合前にこの場所が使されることがあっても、敵軍の選手が、試合後に使うのは異例だ。 そのインタビュールームでマイクの前に座った田中は、「皆さん(メディア)にブーイングが凄いとか言われていたのに、特に何もなかったので、皆さんに謝って欲しいです」と、記者団をジョークで笑わせた。大量9点の援護に守られたが、失点は、4回にオルティス、ナポリにソロ2発を打たれただけで、7回3分の一を7安打、無四球、7奪三振にまとめて、3勝目を奪った。調子は「中の中くらいだった」そうである。 “世界一レッドソックス”の面々も、田中には脱帽だった。ホームラン、二塁打と、メジャーの凄さを見せつけたナポリも 「いいボールを持っている。どんな球でもストライクが取れるし、コントロールがいい。他の投手と同様、ビデオを見て、ゲームプランを持って望んだが…」と、絶賛。ペドロイアも「グレートピッチャーだ」とひとこと。オルティズは、取材陣の前に姿を現さなかったが、最大のライバルからも、その実力を認められた。彼らは、おそらく“追い込まれる前にしとめる”という積極的打法をチーム方針としていたのだろうが、早いカウントからでもスプリットを使われるので、ヒットを点から線にすることができなかった。