「平和の少女像」展示の芸術祭負担金訴訟で名古屋市の敗訴確定 守られた表現の自由
愛知県で5年前に開かれた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の実行委員会(会長・大村秀章知事)が名古屋市に負担金の未払い分約3380万円の支払いを求めた裁判で、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は3月6日、名古屋市の上告を棄却する決定を出した。市に全額の支払いを命じた一、二審判決が確定した。
芸術祭の企画の一つとして開かれた「表現の不自由展・その後」は旧日本軍「慰安婦」を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇のコラージュを燃やす場面を含んだ映像作品「遠近を抱えてPartⅡ」などに抗議や脅迫が殺到。開幕3日目に中断、閉幕間際に再開した。 河村たかし名古屋市長は芸術祭実行委の会長代行だったにもかかわらず、不自由展会場を視察して「日本人の心を踏みにじるもの」と展示中止を求めた。閉幕後には元最高裁判事を座長とする第三者委員会を設置。その報告書を踏まえ、負担金約1億7100万円のうち未払い分の不交付を決めた。 実行委は20年5月、名古屋市を提訴。市は裁判で、不自由展に展示された「平和の少女像」「遠近を抱えてPartⅡ」など3作品は多くの鑑賞者に不快感や嫌悪の情を催させる「ハラスメント」性が強く、「反日」に偏っていて政治的中立性を欠き、公共事業としての適合性に著しく反している、そのような展示に負担金を交付することは地方財政法や地方自治法に違反する、などと主張した。 名古屋地裁は22年5月、「芸術活動の性質に鑑みれば、不快感や嫌悪感を生じさせるという理由で、ハラスメントなどとして芸術活動を違法だと軽々しく断言できない」と市の主張を退け、同年12月の名古屋高裁判決も支持した。 市は二審敗訴後の23年1月、「遅延損害金の拡大を止めるため」として同約550万円を含む3900万円余りを「仮払い」。裁判費用も220万円余りかかっているが、河村市長は敗訴確定後の3月7日、「残念を通り越している」と報道陣に不満を漏らすなど反省の色はうかがえない。この一件以来「犬猿の仲」の大村知事は「当然で妥当な判決。私どもの主張がすべて採り入れられた」と述べた。