「平和の少女像」展示の芸術祭負担金訴訟で名古屋市の敗訴確定 守られた表現の自由
否定された「裏書き効果」
当時、河村市長らの「標的」とされた作品の作家は何を思うのか。市の第三者委の報告書で「天皇肖像画等を含むビデオ」と記された「遠近を抱えてPartⅡ」を出品した大浦信行さんは「司法としての判断で表現の自由がギリギリ守られたことになるのかな」とぽつり。自身が監督し、出品作品にも引用した映画『遠近を抱えた女』はベルギーの映画祭で好評を博したものの、日本の映画館では一般上映できないままだ。「作家自身が萎縮してしまうのが怖い。『あいち』のようなことがあると、そういう表現をしたらダメなんだって暗黙のうちに浸み込むっていうか、無意識に線引きしちゃう」。 昨年、『遠近を抱えた女』の2作目が完成、海外の映画祭への出品を予定している。「大事なのは、作家の創造力はそれでも死なないという心意気。誰かしら見てくれている、それを信じたい。『あいち』で鍛えられましたよ」と大浦さん。 武蔵野美術大学の志田陽子教授(憲法・芸術関連法)は「芸術は、日ごろ当然と思っている見方をあえて引っ繰り返したり、何となく見なくて済ませていることをむき出しにしてくれたりする。これをハラスメントだ、ダメだと言ってしまうと、現代芸術は成り立たない。このことを正しく理解した判決を地裁は書き、最高裁に至るまで支持した」と評価。さらに、負担金を交付すれば作品の政治的主張を後押しする印象を与えかねないと市が主張する「裏書き効果」を否定した一審判決を、二審、最高裁が支持したことを重視する。 「自治体が公共施設を貸したり、後援したりしたとしても、その主張の内容を後押ししているのではなく、芸術や政治的主張など市民の表現活動を後押ししているだけ。今回の最高裁決定は、市民や文化行政が本来の筋道を取り戻す社会的影響を与えるものになりうる」と期待を寄せている。
井澤宏明・ジャーナリスト