老後資金づくりの王道、積み立てで行うべきは“貯蓄”ではなく、“投資”
心理的にも大きな効果が
では「投資時期の分散」とはどういうことかというと、持っているお金を一度にまとめて投資するのではなく、時期を分けて投資するということです。よく言われる「ドル=コスト平均法」という投資方法がその典型です。毎月一定金額を購入することで、高いときは少ししか買わず、安くなればたくさん買えるから有利だと言われているやり方です。積み立てで投資する場合はまさにこのドル=コスト平均法を利用することになります。 投資対象の分散効果は理論的に説明できますが、このドル=コスト平均法はどんな場合でも必ずしも有利な投資方法というわけではありません。ただ、このやり方には大きなメリットがあります。それは心理的に惑わされずに済むことです。 人は誰でも投資している株や投信が上がるとうれしくなり、買い増ししたくなりますし、下がると見るのも嫌になり、場合によっては売ってしまったりすることもあります。でも本来は上がれば冷静に売り、下がれば買い増すほうが成功する可能性は高いのですが、なかなか人間の気持ちはその通りにはなりません。そう考えると自動的に定額購入を続けられることで不合理な間違った判断をせずに済むという点でこれはとても良い方法です。 それに投資の場合は売買のタイミングを判断するのが難しいものです。まとまったお金が入った時が必ずしも投資をするのにベストなタイミングとは限りません。したがって「積み立て投資」は「積み立て貯蓄」以上に合理性のある方法だと言っていいでしょう。
水に入らなければ決して泳げない
「積み立て」と「投資」の相性が良い理由、二つ目は「体験できる有利性」です。投資はまとまったお金でないとできないと思っている人が多いのですが、決してそういうわけではありません。現在は投資信託であれば毎月千円ぐらいから積み立てられるものもあります。 投資というのはある意味、水泳と同じようなものです。水泳に関する本を100冊読んでも、水の中に入らなければ決して泳ぐことはできません。投資も同様で金額の多寡を問わず、自分で体験することで知識や判断力が身につくのです。そういう体験をしないまま、サラリーマンが会社を退職して、金融機関に勧められるままに退職金というまとまった大切なお金を一度に投資するというのは極めて危険です。したがって、若いうちから少額でいいので積み立てによって「投資」を心理的に体験することが将来大きな失敗につながらないために役に立つのです。 もちろん「積み立て」は投資だけではなく、貯蓄でもかまわないのですが、貯蓄は必ずしも積み立てでやらなければならないことはありません。まとまったお金が入った時、例えばボーナスをもらった時にまとめて貯蓄しても何も問題はありません。むしろできる時はたくさんしておいた方が良いでしょう。これは投資と異なる点です。 日々の価格の変動に惑わされることなく、「積み立て」という仕組みを利用することは老後資金をつくるために投資する方法としては最も適切なやり方だと思います。私自身64歳になる現在も毎月積み立て投資を続けています。 (経済コラムニスト・大江英樹) 日本証券アナリスト協会検定会員、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行動経済学会会員。著書に『定年楽園』『その損の9割は避けれる』(三笠書房)『老後貧乏は避けられる』(文化出版局)、最新刊に『はじめての確定拠出年金投資』(東洋経済新報社、6月10日発行)がある。