暗殺予告を受けていたのに避暑地に…ロブスター獲りの最中に爆殺された、とある伯爵家の歴史
「父の仇」との和解を喜んだ2代伯
ともに強烈な野心を備えていた両親から生まれた第2代伯爵(1924~2017)は、両親とは異なり、穏やかな性格に育っていた。父から溺愛され、それに母が嫉妬するようなこともあったぐらい、満ち足りた生活を送っていたようだ。19歳のときに父のいる海軍の女性部隊に入隊し、信号係の下士官として従軍。終戦時には三等航海士の資格も得ていた。戦後すぐの1946年に父の副官だったブラボーン卿と結婚した。花嫁の付添人にはエリザベスとマーガレットの両王女もついてくれた。 2人は5男2女の子宝に恵まれた。特に次女のアマンダはチャールズ皇太子(チャールズ3世)とは幼なじみであり、野心家の祖父マウントバッテン伯爵が両者に結婚を勧めようとしていたこともある。しかし暗殺事件で立ち消えとなり、むしろ伯爵の暗殺を機会に皇太子が急速に恋仲を深めたのが、スペンサ伯爵家の令嬢ダイアナだった。 父の死後に伯爵家を継いだパトリシアは1999年まで貴族院議員も務め、父が残した各種団体の長も引き継いだ。2012年6月に、その父や自分を爆弾で狙った元IRA司令官で、その当時北アイルランド政府副首相を務めていたマーティン・マクギネスがエリザベス女王やエディンバラ公と握手をしたとき、報道で見ていたパトリシアは「平和をもたらしてくれることなら、いかなる行動にも賛成する」と女王を絶賛した。 その5年後にパトリシアは93歳で大往生し、長男のノートン(1947~)が第3代伯爵を継承している。「マウントバッテン」の名前は様々な意味でイギリスの歴史のなかに深く刻み込まれているのである。 君塚直隆 1967年東京都生まれ。立教大学文学部史学科卒業。英国オックスフォード大学セント・アントニーズ・コレッジ留学。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程修了。博士(史学)。東京大学客員助教授、神奈川県立外語短期大学教授などを経て、関東学院大学国際文化学部教授。専攻はイギリス政治外交史、ヨーロッパ国際政治史。著書に『立憲君主制の現在』(2018年サントリー学芸賞受賞)、『悪党たちの大英帝国』、『ヴィクトリア女王』、『エリザベス女王』、『物語 イギリスの歴史』他多数。 協力:新潮社 Book Bang編集部 Book Bang編集部 新潮社
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