決して遠い未来の話ではない「ヒューマノイド」が労働力になる日
日本でも労働現場で働くヒューマノイドロボットの開発が進んでいる。 川崎重工が開発したヒューマノイドロボット、その名も「Kaleido(カレイド)」。2015年に開発を開始し、2017年に最初のモデルが発表され、現在はバージョン8まで登場。二足歩行の弱点である転びやすさや壊れやすさの改良が進められてきたほか、頭部にプロジェクタを内蔵し、顔の表情を表現できるようになった。 カレイドは身長約180センチ、体重約85キロ。体格のいい成人男性といったところだろうか。川崎重工がカレイドを人間と近い体格にしたのは、災害現場などで人間が使う防護服や道具、乗り物などをそのまま使用することができるようにするため。カレイドには、災害現場などの「人間が近づけないような環境」での活躍を期待している。人間とほぼ同じ体格で、動きも似させることで、わざわざ専用の道具を作る必要がなく、臨機応変な対応ができると考えられる。 また、このカレイドの特徴を活かし、ロボット開発スタートアップの「人機一体」が「零一式カレイド」を開発。JR西日本がロボットを採用し、作業の危険度が高い高圧送電線の保全などを行うため、5年以内を目処に実用化を目指している。 労働者が注意をしていても、長時間労働の疲れや、ほんの一瞬の気の緩みで大きな事故につながってしまう。肉体的に過酷で危険度の高い作業をヒューマノイドロボットが担えるようになると、人間の労働者が作業中に命を落としたり怪我をしたりする事故が削減できるかもしれない。
市場が拡大、背景には労働者不足か
今、世界的にヒューマノイドロボットの開発が加速している。ゴールドマン・サックスが今年2月に発表したレポートでは、ヒューマノイドロボットの対応最大可能性市場(TAM)は2035年までに380億ドル(日本円で約5兆5千億円)に達すると予測している。過去に予想されていたよりも市場規模が大きくなる見込みだ。 急速に拡大する背景として、家事代行から危険度の高い作業処理まで活躍の場を大きく広げていることや、人工知能(AI)の進歩により投資が後押しされたからであると推測されている。冒頭で紹介したFigure社はOpenAI社だけでなく、アメリカの半導体大手「エヌビディア」から6億7,500万ドル(日本円で約1,000億円)を調達したと発表している。 ヒューマノイドロボットへの関心が高まる背景には労働者不足も挙げられる。労働者不足は多くの国にとって課題だが、依然として解決されていない。国際労働機関(ILO)が今年1月に発表した「世界の雇用及び社会の見通し」によれば、昨今の緊縮的なマクロ経済政策によって「労働力の不足状況は緩和されてきたようにも見える」としつつも、労働需要不足の指標では2023年はほぼ4億3,500万人と高い水準となった。 日本でも深刻な問題となっている。日本は中国に次いで、国内の産業ロボット設置数世界2位を誇っているが、それでも人材は不足しているのだ。帝国データバンクは今年1月、2023年に人手不足を理由に倒産した企業が260件で、過去最多を大幅に更新したと発表した。また正社員が不足していると感じる企業も多い。人手不足割合を業種別に見ると主にIT企業を指す「情報サービス」が77%で最も高く、「建設」や「医療・福祉・保健衛生」、「自動車・同部品小売」なども6割を超えた。 企業は人手不足を解消するために給料を高くするなどして働き手を呼び込もうとする一方、現時点ですでに人手が不足していて大型案件や新規の仕事などに着手できずに財政的に圧迫される事態も起きているという。 だからこそ注目される、働くヒューマノイドロボット。イーロンマスク氏がCEOを務める「テスラ」の「オプティマス」の開発が最終段階で、年末までに完成する予定だという。 また中国の「優必選科技(UBTECH Robotics)」は、開発したヒューマノイドロボット「Walker S」を中国自動車大手「中国第一汽車集団」とドイツ「フォルクスワーゲン」との合弁会社の生産ラインに導入し、ボルト締め、部品取り付け、部品搬送などを任せるという。Walker Sはすでに中国の自動車メーカーの工場などに導入され、実地訓練が行われている。 どんどん加速しているヒューマノイドロボットの世界。一方ではロボットが人間の仕事を奪うのではないかと懸念する声も聞こえる。2045年にはAIを導入されたロボットが人間を上回ること、いわゆる“シンギュラリティー”に到達すると、AIの先駆者レイ・カーツワイル氏は語った。人間とヒューマノイドロボットが同じ体格、見た目になったとしても適材適所、それぞれが役割分担して共存する社会を描いていく必要があるのだ。
文:星谷なな /編集協力:岡徳之(Livit)