自衛隊のネパール派遣は遅い? 海外派遣に必要な手続きは
「PKO法」と「国際緊急援助隊法」
かつて、自衛隊の部隊を海外へ派遣するのは、どんな場合でも日本国憲法に抵触する恐れが大きいと考えられていました。1987年に国際緊急援助隊法が制定された時もそのような考えが支配的でしたが、その後、湾岸戦争を契機に日本の国際貢献のあり方が再検討され、憲法が禁止する「武力の行使」の危険がない場合には海外派遣も可能との考えが採用されるようになり、「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(いわゆるPKO法、1992年成立)」と同時に、国際緊急援助隊法が一部改正され、(1)自衛隊の隊員または部隊に国際緊急援助活動を行わせること、(2)同活動を行うための人員や機材などを自衛隊の部隊または海上保安庁の船舶により輸送させること、が可能となりました。 PKO法は紛争後の平和維持、国際緊急援助隊法は主に海外の災害支援が目的として法制度が整備されたのです。 この結果、自衛隊はこれまでにトルコ、イラン、タイ、インドネシア、パキスタン、フィリピンなど10か国以上に国際緊急援助隊を派遣しています。
「海賊対処法」と「国際緊急援助隊法」
さらに、自衛隊の海外派遣としては、2009年のソマリア沖での海賊対処があります。これは国際緊急援助とはいくつかの点で異なっています。問題の海賊の横行は2007年ごろから目立ってきました。この海域は日本の船舶も多数利用しており、その保護の観点からも、また、国際協力の観点からも日本としても対応が必要となり、とりあえずは自衛隊法ですでに認められていた方法である「海上警備行動」として、海上自衛隊の艦船が派遣されました。そして、間もなく海賊対処法が制定され、それ以降は同法にしたがって行動することになりました。 海賊に対処するにはどうしても武器の使用が必要となることがあります。そうなると憲法との問題があるので国会での承認も必要です。国際緊急援助との具体的な違いはつぎの諸点です。 第1に、海賊対処は同年に成立した「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)」に従って行われますので、「国際緊急援助法」に従って行われる国際緊急援助と根拠法が違っています。 第2に、海賊対処の場合は、業務の性質上、定程度の武器使用が必要となることがありうることです。その点ではPKOの場合と類似しています。国際緊急援助隊はまったく武器を携行しません。 第3に、国会での承認の態様においても業務の性質の違いが反映され、海賊対処の場合は法律で活動結果を国会に報告することが義務付けられていますが、国際緊急援助の場合は結果を「随時報告」することが法律成立の際の決議(附帯決議)で求められているにすぎず、法的な義務ではありません。 自衛隊によるこれら3つの種類の活動を国民は理解・支持していると思われます。内閣府が2012年に実施した世論調査では、国際平和協力活動について「大いに評価する」が32・0%、「ある程度評価する」は55・4%と、評価する意見は9割近くに達しました。 (美根慶樹/平和外交研究所)
■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹