【水口予報士が解説】「松山でここまで降るとは想定外だった…」ベテラン予報官の葛藤と“記録的大雨”から得る教訓
11月2日、台風21号から変わった低気圧や前線などの影響で各地で激しい雨となった愛媛県内。 松山市付近では午前11時30分までの1時間におよそ100ミリ。今治市付近で正午までの1時間におよそ120ミリの雨を観測し、稀にしか発生しない大雨であることを知らせる「記録的短時間大雨情報」が2000年以降初めて発表された。
「オオカミ少年になってはならない」経験積んだ予報官も葛藤
当時の雨を振り返る松山地方気象台の中塚統括予報官。 松山地方気象台が発表していた気象情報では、予想雨量は多い所で1時間に40ミリ。しかし実際に観測した1時間雨量は松山で78ミリ、今治で54ミリでともに1年を通じて観測史上最も多くなった。 中塚統括予報官によると、予報に使用するスーパーコンピュータは、予想の段階で東予で1時間80ミリ以上、中予や東予を中心に24時間雨量が200ミリという数値を出していたが、そのまま予報に盛り込むことはなかった。 「モデルが出していた1時間80ミリというのはとんでもない数字。瀬戸内側で1時間に50ミリという量でもこれまでほぼない。毎回最も悪い数字を出して予報しているとオオカミ少年になってしまう」 現在の天気予報はコンピュータの予報モデルをもとに作られているが、モデルは種類や初期値ごとに変わるため、実際は標準値に近いデータに補正し、最新の実況や地形の影響などを考慮して組み立てていく。 長年予報を続けてきた予報官の経験値、コンピュータが出したデータとの間で葛藤が生じる。
なぜこの時期に?
大雨の際、上空に流れ込む暖かく湿った空気を表す相当温位は通常345K(ケルビン)。しかし当時の実況では348Kと梅雨時期や真夏以上となった。さらに上空1500mには予想を超える50ノット以上の下層ジェット気流も観測され、季節は晩秋の11月なのに、梅雨時期の大雨災害を引き起こすような条件が揃っていた。 「この時期に同じような雨というのは再現性が低いが、何らかの作用で前線付近で雨雲の動きが遅くなったことで同じ場所で雨が降り続いた。発達した雨雲がピンポイントでどこにかかるかを予想するのは本当に難しく、コンピュータの技術もそこまで達していない」 2022年から線状降水帯の予測情報が始まったが、その的中率は1割。気象台ではこれから検証作業が進められる。