得意ハードコートの全豪OPから始まる大坂なおみの2019年。敵はプレッシャーだけ?!
「ハードコートでのナオミは、どこでも優勝の可能性はありますよ」 大坂なおみ(21、日清食品)のコーチのサーシャ・バインは、穏やかな笑みを浮かべて、そう答えた。 昨年末、「大坂が好きなのは速いコートか? あるいはボールが高く弾むタイプか?」「インドアは彼女に向いているか?」など、サーフェス(コートの種類や表面の状態)について詳細を問われた時のこと。静穏ながら芯の通った彼の声音には、大坂の潜在能力に寄せる確信が宿っていた。 昨年つかんだ2つのタイトルがいずれもハードコートだったことに象徴されるように、大坂が最も得意とするサーフェスが、ハードなのは間違いない。イレギュラーが少なくコンディションの均一性が高いため、大坂が持てる力を発揮しやすい戦場だとも言える。 では、他のサーフェスでの活躍の可能性はどうだろうか? 5月にパリで開催されるフレンチオープンは、空の青と美しいコントラストを描く、赤土(クレー)のコートである。このサーフェスを得手とするのは一般的に、球足が削がれるボールをどこまでも追いまわすスタミナ自慢や、ドロップショットなどの多彩なショットを持つテクニシャン。強打を誇る大坂にしてみれば、武器を活かしきれないアウェーの地だ。 もっとも大坂は、「フレンチオープンのクレーは、他の大会よりボールが速いのでやりやすい」と感じている。 これは、ビッグマッチほど力を発揮する彼女にとってプラス材料。とはいえ、赤土の上で育った欧州のトップ勢と伍して戦うには、やはりまだ慣れと経験が必要だろう。 “テニスの聖地”と呼ばれるウインブルドンは、雨と霧の街として知られるロンドンらしく、芝に覆われたグラスコートだ。瑞々しい芝の上を、ボールは滑るように走り、速度を落とすことなく低い軌道で跳ねていく。そのためラリーは続きにくく、高速サーブと強打の持ち主、あるいはサーブ&ボレーなどの速攻を得手とする選手が、この聖地を支配してきた。 その定義になぞるなら、大坂は、本来グラスコート向きの選手と言える。実際に本人も、サーブの優位性が高いことから、チャンスを感じていると言った。 ただ芝の上に横たわる障害は、クレーからの移行に伴う適応の難しさと、ケガだろう。テニス界のカレンダーは、フレンチオープンを終えるとすぐに、芝の季節へと切り替わる。問題は、クレーと芝の特性があまりに異なるため、芝に入った途端に違う身体の動きを強いられ、負傷のリスクが高まることだ。これは大坂に限らず、多くの選手が苦しめられる事象。過去には錦織も、芝では腹筋やふくらはぎにダメージを受けてきた。 その例にもれず大坂も、昨年はウインブルドン前哨戦のバーミンガム大会で腹筋を痛めて、2回戦で途中棄権。その後は練習のできない時期が続き、ほぼぶっつけ本番で挑んだウインブルドンは3回戦進出に留まった。大坂がウインブルドンで上位進出できるか否かは、如何にケガなく良い状態で、4月末から始まる長いヨーロッパ遠征を戦い抜けるかにかかっている。