老舗下着メーカーがアパレルに参入、女性の体を60年研究した独自の知見で「服と下着の境界を超える服」への挑戦
■老舗メーカーならではの知見、延べ約45,000人以上のデータを活用
『OUR WACOAL』には、クリエイティブディレクターにスタイリストの一ツ山佳子氏、一部ウェアのデザイナーには「サカヨリ(sakayori.)」を手掛ける坂寄順子氏が就任。 “トレンドを意識したデザイン性”をおさえつつ、下着メーカーの知見を活かした“体を美しくみせる機能性”を両立している。そしてボディラインやシルエットを美しく見せるために活用されているのが、60年の歴史を持つ「ワコール人間科学研究開発センター」が収集している女性の体の計測データだ。 同センターは設立以来、毎年1000人近くの女性の人体計測を行い、延べ約45,000人以上のデータを収集。同じ女性を30年以上にわたり追い続けた「時系列データ」など他に類を見ない貴重なデータを収集している。 例えば同ブランドの主力商品である「カップインウェア」は、バストの大きさや形を計測したデータをもとにした同社独自のトルソーを用いて設計している。モニターへのフィッティングを何度も繰り返したことで、バストシルエットのキレイさとズレにくさなどの機能性を追求した。 その他のトップスやボトムスには、同研究所の体の動きに対する研究データを使用。「人間が体を動かすときにどの部位がどのくらい動くのか」というデータに基づいて坂寄氏とディスカッションが行われ、洗練されたシルエットを作り出せるデザインに落とし込んでいった。 「一般的な洋服は、人間が立っている状態に対してデザインを行っていきます。でも『OUR WACOAL』では動いたときの形状を意識してデザインしました。例えば肩周りは体の中でもよく動く部分なのでそこに丸みを持たせたり、立体的なパターンにしたり。スカートでは足さばきがいいように足を前に出した時のことを計算したり。動きやすい、かつ動いたときに綺麗なシルエットになることを意識しています」(村井さん)
■素材・縫製…服と下着の一体化に立ちはだかった壁
しかし一着で服と下着の機能を両立するアイテムには、これまでの商品開発にはなかった難局も。 「例えばトレンドを考えてサテン生地にしたいと思っても、伸縮性が足りず下着としての合格ラインに辿りつかなかったり、着心地が良くなかったり。かといって下着としてベストな素材にすると、デザイン的にトレンド感が出なかったり。ひとつのアイテムについて何度も試作品を作って、試着を繰り返し、完成までに一年以上かかることもありました」(村井さん) デザイン案のうち3割くらいはトレンドと下着としてのクオリティ・着心地という3つの合致点が見いだせず商品化を断念。厳しい視点で合格点を出したものだけが、商品化に至っている。 また洋服の縫製と下着の縫製とでは糸の太さから異なるとのこと。それらを縫い合わせる縫製の段階が最も苦労したと村井さんは語る。 「ブラジャーのカップ構造とその周りには繊細な縫製技術が必要なんです。そのカップの構造がしっかり保たれるというのは『OUR WACOAL』のカップインウェアにおいては外せない点です。なのでサンプルが出来上がる度に工場と打ち合わせを行い、認識をすり合わせて、今のクオリティにこぎつけることができました」(村井さん)