PXの成果、100点満点で10点 　だが玉置氏は、これまでのPXに厳しい見方をする。「PXの推進に関しては65点で、及第点だといえる。グループ全体でPXを推進する環境は整っているが、これからは変化・変革を常態化させなくてはいけない。そこがマイナス部分になる。。変革の『マグマ』と言えるものが常にあり、これをDNAとして浸透させることがゴールだ。プロセスやシステムの変革という観点でゴールはない」とする。 　一方で、「変革の成果では、100点満点で10点」と厳しい。「パナソニックグループは多くの事業の集積で、多くの国で展開している。『DX銘柄』企業は、当社グループなら1つの事業会社の規模。グループ全体で一律、一様に実現することは絶対に無理。本社の立場は10点だが、事業会社から見れば70点のところもあり、5点のところもある」と語る。 　それでも「10点は想定通り」と述べる。玉置氏は「PXによる変革の期待値は最初から低かった。そういう考えでないとPXは進まない」とし、「私はPXの推進リーダーだが、現場では何の力もない。ビジョンを考え、その元に優秀なテクノクラートの人たちをそろえる役割であり、最終的な推進は現場力にすがるしかない。現場での取り組みを評価し、PXの活動をより大きなものにしていきたい」とする。 　さらに、「PX推進の65点のうち現場活動の成果が45点、残り20点が『PX：7つの原則』に対する経営のコミット」とも述べる。「DXに経営幹部全員がコミットすることは日本企業ではほとんどできていない。経営のコミットがなかったら、PXは別の方向に行っていただろう」と振り返る。 　玉置氏は、2025年以降のPXが成果を加速し、創出する1年になるとの考えを示す。　「データ活用で商売を作り変え、新ビジネスに挑む。新たな変革が始まる。どこも実現できていなかったパナソニックらしいといえるDXがいよいよスタートする」と語り、それを「PX2.0」と表現した。 　「PX1.0で基礎を固め、デジタルを積極的に用いてビジネスモデルを変える。業務やサービス、商品、流通、取引先との仕事のやり方を変革し、Blue Yonder、AI、ML（機械学習）などの技術をさらに活用していく」と玉置氏。その兆しが既に幾つか出ている。 　例えば、車載用バッテリーを生産する米国ネバダ州のギガファクトリーでは、センサーとAIを活用して、材料手配から保守までをデジタルで連携。延べ500万品の故障を防止し、補修業務工数を50％削減した。この成果を建設中のカンザス州の車載用バッテリー工場にも実装することになる。 　また、次世代ファミリーコンシェルジュサービス「Yohanaメンバーシップ」では、日米でサービスを提供し、12万件の「To-do」に対応。利用者は月13時間の削減効果があるという。玉置氏は、「新たなデータ利活用に向けた布石。『Club Panasonic』を通じた家電のデータだけでなく、Yohanaメンバーシップなどのデータ活用を拡大し、家族のライフステージの変化に寄り添い、くらしを理解する企業として価値を提供したい。2025年1月以降、何らかを発表できる」と述べた。 　玉置氏は、PX2.0で実現する新事業の詳細には触れなかったが、家電商品を持ち、顧客と多くの物理的接点を持つパナソニックにしかできないものを創出できると自信を示す。 　パナソニックは、PX関連で2024年度までの3年間に1210億円のIT投資計画を発表しているが、ほぼ使い切る計画だという。2025年度以降のIT投資は、「デジタル投資が増えている」としながら、「グループCIOの立場では、さらにメリハリをつけて無駄や重複を排除し、絶対額を減らすことにも取り組みたい。一方で、事業会社をより専鋭化させ、アジリティーを高めるためには投資を強化したい」と語る。 　パナソニックグループのITコストは、売上高の2.46％を占める。「当社グループの規模なら2.0％に抑え込む必要があり、それだけで400億円以上の利益貢献になる。スケールを生かした調達力を生かさないといけない」と玉置氏。 　グループでは、販売終了とサポート終了時期が明確な富士通製メインフレームがまだ9台稼働している。この脱却が課題で、2028年度までに完了させたい意向だ。モダナイゼーション投資も不可避となっている。