「三途の川がはっきりと見えた」がんで余命宣告の「森永卓郎さん」…医療費「毎月120万円」の先に見据える「病は気から」の境地
残り数日の命だと思った
2023年12月27日、朝のラジオ生放送から帰宅するその足で、私は近所の病院でアブラキサンとゲムシタビンというすい臓ガン向きの抗がん剤を点滴で投与した。当日は何も起きなかったが、翌日私の体調は激変した。 何も食べられない、水分も取れない、立っていることも、考えることもできなくなってしまったのだ。この時は、三途の川がはっきりと見えた。残り数日の命だと思った。 そんななか、都内のクリニックで点滴投与した一種の「気付け薬」が、劇的効果を発揮して、私はからくも一命を取り留めた。そして、病院に2週間、体力回復のための入院をしたのだ。その間、病院を一瞬抜け出して、クリニックで「血液パネル検査」を受けた。血液を分析して、80種類の遺伝子変異の有無を調べる検査だ。その結果、すい臓ガンの場合95%の確率で出現する「KRAS」という遺伝子変異がまったく見つからなかった。つまり、私はすい臓ガンではなかったのだ。医師の診断は、「原発不明がん」に変わった。 ただ、その診断によりむしろ厳しい選択を強いられることになった。どこに「原発」のがんがあるのか分からないから、手術や放射線治療はできない。抗がん剤も、がんの種類によって異なるから、何を使えばよいか分からない。つまり抗がん剤も使えないのだ。 がんは、誰の体の中でも毎日発生している。それを免疫細胞が毎日殺している。ガン細胞軍団と免疫細胞軍団が、毎日合戦を繰り広げているのだ。ただ、何らかの理由で免疫細胞が劣勢になると、一気にがん細胞が支配的になる。それががんの発症だ。
「オプジーボ」と「NK療法」
普通のがん治療は、抗がん剤や放射線を使ってがん細胞を抑え込みに行く。ところが私の場合は、がん本体(原発がん)がどこにあるのか分からないから、それができない。唯一残された手段は、免疫細胞を元気にすることだけだ。そのため、私は2つの治療を行っている。 一つは、オプジーボという免疫チェックポイント阻害剤の投与だ。ノーベル賞を受賞した本庶佑名誉教授の研究をもとに作られた新しいタイプの治療薬だ。もう一つは、「NK療法」と呼ばれる治療で、採取した血液のなかから免疫細胞を増殖培養して体に戻す治療だ。 オプジーボは、当初は一回の治療で数千万円かかる非常に高価な薬だったが、いまは薬価が大幅に下がった。そして、原発不明ガンの場合は、保険適用が認められるようになった。私は月に一度、オプジーボの投与を受けているが、保険適用の3割負担で、二十数万円の費用がかかっている。一方、月に2回受けているNK療法は、完全な自由診療で、1回40万円の費用がかかっている。その他の医療費も含めると、私の毎月の医療費は120万円ほどの持ち出しになっている。そのスピードで、預貯金が減り続けているのだ。 恐ろしいペースの流出だが、私の場合、当面の費用負担に問題はない。2023年7月に生前整理の一環で、私はすべての外貨や投資を処分していた。これは本当に偶然なのだが、処分した日の為替レートは160円台、日経平均も4万円を大きく超えていた。つまり、最も高値で売り抜けることができた。そのおかげで三千数百万円の資金が転がり込んできたのだ。いまは、それを毎月食いつぶしているので、あと数年は、資金繰りに問題はない。