あまりに理不尽…!日本製鉄のUSスチール買収を妨害した「ライバルの正体」と、ふたたび露わになる日本とアメリカの「本当の関係」
日米「力の不均衡」の現実
日本製鉄によるUSスチール買収の“失敗の本質”は、冷厳な国際政治の力学を無視した「日米は対等な関係であるはず(べき)だ、自由経済の原則は両国に平等に適用される」という、お花畑的でナイーブな考えにも起因している。 なぜなら、1945年8月の日本によるポツダム宣言受諾に際して、トルーマン大統領からマッカーサー元帥に対し行われた通達は、「日本との関係は契約的基礎に立つのでなく、無条件降伏に基づくものである」と規定しており、これは1952年の日本「独立」後も基本的に変わっていないからだ。 1980年代後半から1990年代初頭の日米貿易摩擦の最中に元駐米大使を務めた故村田良平氏が、自身の執筆した『村田良平回想録』の中でいみじくも指摘したように、日米同盟は本来敗戦によって押し付けられた屈辱的な条約であり、現在の日米関係は「良識を超えた特殊関係」なのである。 日本製鉄のUSスチール買収失敗は、この「勝者の圧政」の文脈で捉えなければ理解できない。 また、故安倍晋三元首相の外交ブレーンの一人として知られた元外交官の岡崎久彦氏(故人)が『村田良平回想録』の書評で述べたように、日米経済摩擦の際に「米国の対日交渉チームの政策の中には、日本に対する善意のかけらもなかった」。 米国が押し付けた米製品の輸入数値目標は「非合理的であり、日本が受け容れても一年経てば達成されないことが明白となると知っていたと思う。そして、目標が達成されなかったときに日本に対して破滅的な厳しい制裁を加えるのが、そもそもの目的だったと思っている。日米同盟の解体さえその視野に入っていたと思う」と岡崎氏は語る。 USスチール買収問題は、この歴史の延長線上にある。日本製鉄が原理原則を声高に叫び、米国で 2 番目に大きいロビー活動会社であるアキン・ガンプ・ストラウス・アウアー&フェルド法律事務所から10人以上のロビイストを抱え入れようが、バイデン大統領やトランプ次期大統領との交渉円滑化の切り札として顧問にマイク・ポンペオ元国務長官を迎えようが、力関係で非対称の相手には通用しないのだ。 理不尽極まりないが、これが現実だ。大統領命令は覆らず、トランプ次期大統領の決心も変わらない。 日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは1月7日の会見で、「現在の契約に基づいて買収計画を進める。現段階で代替案はない」と述べたが、現実に即したプランBを持たない経営者は株主から信頼されないだろう。 現時点で日本製鉄にできるのは、望みのある対クリフス訴訟で筋を通して勝つことくらいしかない。買収本来の目的である「世界第3位の鉄鋼メーカーとして中国競合に対抗し、グローバルに勝負する夢」は、別の方法で実現するしかないと思われる。 【さらに読む】ドル箱「EV市場」のアメリカで「トヨタ」と「ホンダ」が圧倒的に売れない、ヤバすぎる事情【在米ジャーナリストがレポート!】
岩田 太郎(在米ジャーナリスト)