あまりに理不尽…!日本製鉄のUSスチール買収を妨害した「ライバルの正体」と、ふたたび露わになる日本とアメリカの「本当の関係」
バイデンの狙いは競争力のない「米企業の救済」
今回の日本製鉄のUSスチール買収失敗をクリフスの視点から見ると、トランプ次期大統領が2024年2月にまず阻止を叫び、大統領選挙の対立候補であったバイデン大統領とハリス副大統領も負けじと反対を表明したおかげで、敗者になる運命から救われたと言える。 米鉄鋼業界は現在、需要の鈍化、利益率の低下、原材料などの供給網の混乱、最新技術への対応など、多岐にわたる課題に直面する。2023年7月にクリフスがUSスチール買収を仕掛けたのは、コスト削減と競争力強化を狙ったからだ。 先述のアナリストのギブズ氏は、「クリフスは財政的に脆弱で、過去数四半期にわたり損失を計上している。鉄鋼メーカーが(激しい競争で)価格設定において強気に出られない環境の下、クリフスの赤字傾向は今後も続くだろう」との見解を示した。 さらに同氏は、「クリフスは、自動車メーカー向け製品が最も多く売上を叩き出す主戦場だが、2024年に入って低迷していた。実は、その分野こそグローバルな展開と技術力で価格競争力のある日本製鉄の得意とするところだ。中長期的には、クリフスはさらに日本製鉄にシェアを奪われるだろう」と解説した。 つまりバイデン大統領の命令は、企業の規模や実力が足りないが、発言力と政治力だけは大きいクリフスが、USスチールを吸収した後の日本製鉄との競争で敗北することを避けるために政治を動かした結果に過ぎない。大統領命令の本質は、競争力のない米国企業の救済であり、安全保障はほとんど関係がなかったということだ。 事実、バイデン大統領の命令は、日本製鉄による買収が「米国の国家安全保障と重要なサプライチェーンにリスクをもたらす」という「信頼に足る証拠」があるとするが、具体的な根拠は示していない。 一方、真っ先に買収阻止に動いたトランプ次期大統領は、自ら手を下さずにバイデン大統領が発出した命令で目的を達成し、「米国を象徴するUSスチールを海外企業から守るきっかけを作った」という評価を得ることができた。さらに“ボーナス”として、自身の米国第一主義をライバル民主党に浸透させ、イデオロギー面でも勝利できたのである。 1月6日のソーシャルメディアへの投稿でトランプ氏は、「(私が鉄鋼輸入品にかける)関税でUSスチールははるかにもっと稼げるようになり、価値ある企業になる。そうであれば、(わざわざ)今、身売りしたいと考えるだろうか」と問い掛け、「(関税)は、すぐ実現する!」と続けた。