あまりに理不尽…!日本製鉄のUSスチール買収を妨害した「ライバルの正体」と、ふたたび露わになる日本とアメリカの「本当の関係」
日本製鉄による「正義の訴え」
一方、勝訴見込みがほぼ皆無の連邦政府に対する裁判と比較して、日本製鉄にそれなりの勝ち目がある、あるいは敗訴しても筋の通った主張が残せる可能性があるのが、対クリフス裁判だ。 2023年のUSスチール買収争いで日本製鉄に競り負けたクリフスは、日本製鉄の退場後に、再びUSスチールに買収を仕掛ける野心を隠していない。一部の米証券アナリストたちは、クリフスが買収再提案をすれば同社の株価が上昇するという見通しを示している。 しかし、米独占禁止法の観点から見て、クリフスのUSスチール買収は平鋼で米市場全体のおよそ50%、自動車向け板金のほぼ100%、高炉生産量の100%という独占企業を誕生させるため、多くの資産を「切り売り」しなければ無理筋だ。 翻って、日本製鉄のUSスチール買収の目的は世界第3位の強い製鉄メーカーになって成長路線を歩むことであったため、たとえ勝訴しても本来の目標が達成できない対クリフス裁判には象徴的な意味しかない。それでもこの訴訟は、日本製鉄の行える宿敵への最大の反撃、そして復讐となる。 日本製鉄は「競合クリフスが労組と共謀して、日本製鉄に対して執拗な妨害を行い、ジリ貧状態のUSスチールがやがて行き詰った際に、以前の提案額よりさらに安値で『救済』の買収を行うための壮大な反競争的陰謀の一部であった」と主張している。 この訴えは、「市場に売り手が多く存在し、誰もが売り手として参加することができ、互いに競い合いながら商品を自由に販売できる自由競争」の考えに照らせば、一理ある。 米金融大手キーバンクのアナリストであるフィル・ギブズ氏は、USスチール本社があるペンシルベニア州ピッツバーグの地元紙ポスト・ガゼットとのインタビューで、「クリフスが最も声の大きな反対者であった理由は、もし買収が成立した場合に最大の敗者となっていたからだ」と分析している。 買収失敗の補償として日本製鉄が、クリフスの将来の買収対象であるUSスチールに5億6500万ドル(約890億円)の違約金を支払って“最大の敗者”となり、USスチールを「救う」クリフスが、米国繁栄の象徴であった同社をお膝元に残した愛国的かつ英雄的な存在として、“最大の勝者”になることは、道義的に見ても疑問点が多いことは確かだ。