ヘビ神は「死の管理人」? 2025年の干支の恐るべき‟もうひとつの顔”を覗いてみた
ヘビ神を祀る
〈ヘビ信仰は今なお山陰地方において、荒神・大元神の信仰と癒合して残存している。その一例、大山赤松の荒神祭のようすを、白石昭臣にしたがって一瞥しておこう(『日本人と祖霊信仰』)。四年に一度のこの荒神祭にさいしては、30メートルほどの大ヘビが藁でつくられ、そのなかほどに男根の模型が挿入される。祭りの当日になると藁ヘビをかついだ氏子たちが部落中をねり歩き、さいごには氏神社境内の神木にこの藁ヘビが巻きつけられる。 さて白石によれば、荒神・大元神には祖霊神および農耕神の二面が存在する。中有にとどまったままの死霊を祖霊にまでとむらい上げる媒体の役割を、神木に巻かれた藁ヘビがはたす。それとともに農作の成功が祈られるのである。〉
豊饒神にして死の管理人
〈かくて現存する山神の祭祀においても、この神の豊饒神・農耕神としての機能と、死にかかわる神としての機能の両方がみられる。 ただし後者が、死霊の悪霊化を抑止する働きとなっているのはおもしろい。たとえばタコ薬師がイボ落としの霊験をもつというたぐいの、一種の同質抑制作用を藁ヘビが発揮するのかも知れない。そうでなく、山神の死の管理職掌がここにあらわれたと見なしたほうがよいだろうか。 藁ヘビが関与する荒神・大元神の年季祭の存否は、周辺における焼畑農耕の有無と見事に符合する。しかも年季祭の周期は焼畑農耕の周期に依存して生じたと推定される。すなわち、農耕神としてのヘビ信仰は水田ではなく焼畑を基盤として成立しているのである。以上の白石の報告は、ヘビ神が一次的には山神だとする説の裏づけになりうるだろう。〉 * * * ヘビの豊饒神としての性格については「2025年の干支はヘビ 「豊饒の神」なのに「目が合ったら一族滅亡」ってどういうこと?」で!
学術文庫&選書メチエ編集部