「ブッ壊すぞコノ野郎!」民間人も“どう喝”した警部が懲戒免職 それでも裁判所が「退職金1290万円」を認めたワケ
ジャッジ
裁判所 「懲戒免職はOK! だけど、退職金ゼロはダメ。1290万円払ってあげなさい~」 以下、順番に解説します。 ▼ 懲戒免職はOK 懲戒免職がOKになるケースってかなり限られます。懲戒免職が「社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱しまたはこれを濫用していた場合」に限り違法となるんです。 今回のケースでは、Xさんは、公務執行妨害、傷害、強要未遂(店員にカラむ)などをやらかしており、裁判所は「粗暴かつ悪質だ」として懲戒免職がOKとなりました。 ▼ 退職金ゼロはダメ 退職金ゼロまたはカットできるのは「ほんとにヒドイ場合だけ」なんです。正式に言うと「労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく正義に反する行為があった場合」だけ退職金ゼロまたはカットできるんです。 なぜなら、退職金というのは【給料の後払い】という側面があるからです。会社は、将来のホクホク退職金というニンジンをぶら下げており、その結果、あなたの現在の給料が抑えられていますよね。その後払いの給料をゼロまたはカットするんだから「それなりのヒドイ事情が必要だ」という裁判所の判断です。 今回の裁判所の判断を要約すると以下のとおりです。 裁判所 「たしかに上級職の警部でありながら粗暴な態様で複数の犯罪行為に及んでおり、警察への信頼に及ぼした支障の程度は重大。しかし、Xさんには重篤な躁(そう)状態という疾患があった。約24年にわたり勤務し、県内における犯罪の検挙や治安の維持に貢献してきた。警察学校の教官を努めたこともあり、警部に昇任してからは警察官の育成にも貢献してきた」 なので「退職金ゼロは裁量権を逸脱しており違法」と判断しました。退職金がゼロになるケースはめったにないですね。
退職金ゼロ裁判例
しかし! 警察官のオイタで退職金がゼロになったケースもあります。なんと警察官が署内の女子トイレを盗撮したんです。女子トイレの換気扇のフタを交換して細工するという職人技。29回の盗撮で被害者は11名。あえなく御用となり懲役2年(執行猶予4年)の判決を受けました。 退職金1800万円をゼロにされた警察官は提訴しますが、裁判所は「フタの交換とか犯行態様が巧妙だし常習性あるし退職金ゼロは仕方ないよね、ドンマイ」と断罪しました(高知地裁 R4.10.28)。 今回は以上です。これからも労働関係の知恵をお届けします。またお会いしましょう!
林 孝匡(弁護士)