目利き書店員が太鼓判…絶対読むべき2024年の歴史時代小説大賞が決定!
『佐渡絢爛』赤神諒
――元禄の世、金銀産出の激減に苦しむ佐渡で、立て続けに怪事件が起こる。消えた千両箱、落盤事故、能舞台の斬死体……。江戸から来た奉行の荻原重秀と、広間役として先に佐渡に入っていた間瀬吉大夫は、助手の与右衛門とともに事件の真相解明に動くが――。佐渡金銀山に隠された恐るべき秘密とは? 赤神さんは、第12回『はぐれ鴉』(集英社)以来2回目のノミネートです。 久田 佐渡の金銀は有名だけど、実は知らないことって多いですよね。今回この小説を読んで、鉱山に根付いた文化や佐渡の豊かさに驚かされました。また登場人物たちがとても魅力的で、誰も彼もみんな大好きって思った作品です。推しを見つけて盛り上がれる濃厚な時代ミステリーでしたね。あえて物足りなさを挙げるとすると、金山、銀山を掘る穿子たちの過酷さとか苦しさがあまり描かれていなかった点でしょうか。 北川 ミステリー仕立てで面白く読みました。久田さんが仰る通り、登場人物、特に吉大夫の人柄が魅力的ですね。グウタラで遊郭に入り浸っていても実はそこで書類を読み漁っていたり、人の気持ちにも聡く優しかったり、表と裏の顔を持つギャップに惹かれました。著者の佐渡への愛も伝わってきますね。 栗澤 今、お二方からもお話が出てましたけれども、キャラクター造形が本当に見事です。あちこちで問題を請け負っても最後にさらっと解決してしまう吉大夫の魅力。こういう男になりたいものだと感じました。物語としては、謎解きが主軸だと思うんですけれど、その大きな柱があるにもかかわらず、物語の中心はあくまでも人。どこまでも人間の魅力を描いていて、謎はエッセンスにすぎないところが大変巧みだなと思って読みました。謎解きあり、青春あり、恋愛あり、チャンバラあり。時代小説がお好きなお客様には間違いなくおすすめできる一冊です。
『惣十郎浮世始末』木内昇
――時は天保の改革の頃、疱瘡が流行し、改革で幕府の政の柱も揺らぐ中、浅草の薬種問屋で火事が起きた。焼け跡から二体の骸が見つかり、北町奉行所の定町廻同心、惣十郎は配下の佐吉や岡っ引きの完治らと調べに乗り出す。犯人を捕らえたが、黒幕の存在が明らかになり――。著者が新たな地平を開いた捕物帳です。 木内さんは、初ノミネートです。 栗澤 1回読み終えて余韻が残り、読み直してさらにその余韻が深まり、木内さんは心情の機微を描くのが非常に上手い作家だと改めて思いました。人間の感情って単純には割り切れない。思うままにはいかないよということがそのまま描かれているんです。たとえば、主人公の惣十郎には奥さんだった郁とは別に想い人がいた。お手伝いに来ているお雅は、実は惣十郎に恋心を寄せている。こういうままならない関係性の描き方はもうお見事としか言えません。時代小説が初めてというお客様にも安心しておすすめできる一冊です。 北川 今までの同心のイメージとはまた違った人情深い主人公が魅力でした。 人間という生き物はどこか弱いところを持っており、ついつい魔が差して罪を犯してしまうということがある。その気持ちをどう抑えていくのかとしみじみ考えさせられました。はやくも続きが読みたい作品です。シリーズ化も希望です。 久田 捕物帳の主役は基本的にかっこいい人が多いですよね。剣の腕も立ち、鋭いひらめきで手下を自在に使って事件を解決に導く。けれども本書の主人公は、下手人を捕まえた後に上役や仕事の愚痴を言ったり、事務手続きの一切を面倒くさがったり、いままでの捕物帳の主人公からどこか外れているのに、キャラクターとして魅力があふれていて面白かった。読み心地がとにかく素晴らしい作品なので、面白い時代小説をお求めのお客様にはおすすめしやすい一冊です。