銀行経営の足かせ“ドッド・フランク法”廃止でウォール街の憂鬱はなくなる?
米国大統領選で共和党ドナルド・トランプ候補が予想外の当選を果たした“トランプ・ショック”により、市場は一時的に混乱に陥ったものの、その後は、これまた予想外の円安(ドル高)・株高へと向かった。そうした中で、日本でも金融株が大幅高となり、その背景として「ドッド・フランク法(金融規制改革法)の廃止観測」が取りざたされている。 このドッド・フランク法とは何なのか。簡単に整理してみよう。(解説:ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役・田渕直也)
リーマンショックの再発防止のために制定された、ドッド=フランク法
ドッド・フランク法は、2010年7月に制定された米国の包括的な金融規制法だ。米国の法律には、立案や成立に貢献した議員の名を冠した通称がつけられることが慣例となっていて、この法律も民主党クリス・ドッド上院議員およびバーニー・フランク下院議員の名をとって、「ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護法」と呼ばれている(正式名称はやたらと長いので、ここでは省略させていただく)。 この法律は、全16編にわたる膨大な量の包括的な金融規制法だ。その内容は、大規模な金融機関に対する規制の強化、金融システムの安定を監視する金融安定監督評議会(FSOC)の設置、金融機関の破たん処理ルールの策定、銀行がリスクのある取引を行うことへの規制(これはとくにボルカー・ルールと呼ばれている)、経営者報酬への監視強化、デリバティブ取引などの透明性向上など、非常に多岐にわたる。 一般の人たちに直接かかわりのあるところでは、有害な一般向け金融商品を規制し、消費者が金融機関に騙されたり、返済能力を超える貸し付けを受けたりすることがないように監視する消費者金融保護局(CFPB)の設置が挙げられる。 ここでその詳細を述べることはできないが、この法律が制定された経緯を見れば、その本質を伺うことができるだろう。 2008年、リーマン・ショックと呼ばれる未曽有の金融危機が起きた。それまでも金融機関には様々な規制がかけられていたのだが、それでも深刻な金融危機が起きたため、さらなる規制の強化が図られたのがこの法律だ。つまり、金融危機の再発を防ぐための法律なのである。そして、法律名称に冠された二人の議員名を見てもわかるとおり、ドッド・フランク法は、オバマ政権のもとで民主党の主導で制定されたものであり、いわばオバマ政権のレガシー(遺産)の一つだ。