ドイツが難民受け入れから「不法移民への強硬策」へと舵を切った深刻事情...テロ続発で高まる懸念、右派躍進に募る危機感
外国人による犯罪が人口比で高率であることや、増加傾向にあることは主要紙でも報じられるようになっている。2023年1月25日、刑務所から出所したばかりのパレスチナ出身の男(33歳)が、電車内で10代の若者2人を刺殺した事件は衝撃を与えた。 2021年12月に発足したショルツ政権は、外国人問題に手をこまねいていたわけではない。 2023年8月、「安全な出身国」にジョージア、モルドバを追加することを打ち出した。「安全な出身国」から来た越境者は、本人が難民該当性を証明できない限り、原則的に送還される。EU加盟国、アルバニアなどのバルカン諸国、ガーナなどのアフリカ諸国が該当する。
10月からは、自由な人的往来を保証するEU(シェンゲン条約)の理念に反するが、それまでのオーストリアに加え、ポーランド、チェコ、スイスの国境で検問を開始した。 2024年2月27日には、「送還改善法」が施行された。ドイツは人権尊重の考えから身柄拘束を最小限にする考えがあるが、送還に当たっての「送還収容」をこれまでの10日から28日に延ばし、当局が送還の準備を行うために時間確保、逃亡防止をはかった。収容施設での捜査範囲拡大なども定めた。
8月30日には、緑の党から反対意見も出されていた中、犯罪歴のあるアフガン人28人の強制送還に踏み切った。州議会選挙を翌々日に控えた世論対策の狙いもあったのだろう。 ショルツ政権は、国籍取得のための条件を、8年在住から最速で5年に短縮するなど、統合(integration)を促進する、いわばアメの政策も実施したが、総じていえば、流入制限、送還促進の対策を強化してきた。しかし、これらの厳格化も、州議会選挙の結果に表れたように、世論を納得させることができていない。
■不法移民の新たな流入制限が焦点 ショルツ政権はもう一段、厳しい不法移民対策を打ち出す必要に迫られている。送還を促進する措置は法制化したので、新たな流入制限が議論の中心だ。 政権は国境付近に送還を進めるための新たな施設を設置することを提案している。国の移民難民庁の職員を常駐させ、ダブリン規則に照らして難民申請手続きを担うべきEU加盟国に、速やかに送還する手続きを進める。 これに対し、保守系野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は、他のEU加盟国を通過してきた難民申請者を、国境管理に当たる連邦警察が入国させず、追い返すことを主張している。
ドイツがそうした措置を取れば、隣国も流入する難民申請者を制限せざるをえないので、いわば「ドミノ効果」でEUへの流入者が減少するという。しかし、オーストリア、ポーランドは、仮に送り返されても引き受けない姿勢を明らかにしている。 問題の重要さから、いったんは与野党合意のうえで対策を進める機運が高まり与野党協議が開催されたが、合意はできていない。来年秋には連邦議会(下院)総選挙を控えており、主要政党が実効性のある対策を取れなければ、AfDは国政レベルでもさらに勢力を拡大するだろう。
三好 範英 :ジャーナリスト