ドイツが難民受け入れから「不法移民への強硬策」へと舵を切った深刻事情...テロ続発で高まる懸念、右派躍進に募る危機感
ドイツの近年のテロでは、2016年12月19日、ベルリンのクリスマス市にトラックが突っ込み、12人が死亡、53人が重軽傷を負う事件が最も大規模なものだった。 容疑者はチュニジア人の男(24歳)で、12月23日にイタリア・ミラノで警察官に射殺された。ISの思想に共鳴していた。容疑者は2016年6月にドイツで難民申請をしたが却下され、チュニジアへの送還対象となっていたが、書類の不備などでドイツ国内にとどまっていた。
■出入国管理政策に批判の矛先 ドイツの公共放送ARD(電子版)によると、ドイツでは、2006年から今年5月のマンハイムの事件までに、未遂の爆弾テロも含め12件のイスラム原理主義を背景にしたテロが起きている。 これらの事件の容疑者の多くは、出入国管理体制がしっかり機能していれば、ドイツ国内には在留しておらず、従って事件も起こらなかった。政府の出入国管理政策にも批判の矛先が向かっている。 日本では散発的に小さく報じられるだけだが、当然のことながら、ドイツにとってはこれらの出来事は大事件であり、事件があるたびに連日トップニュースで報じられる。
マンハイムの事件の時は、地元で行われた死亡した警察官の慰霊祭に、フランクヴァルター・シュタインマイヤー大統領も出席した。 ショルツ首相は事件を受けた議会演説で、アフガニスタン人であっても犯罪者は送還する、と厳しい姿勢を打ち出した。タリバン政権発足後、帰国すれば迫害の恐れがあるとして、ドイツはアフガン人を送還の対象とはしてこなかった。ゾーリンゲンの事件の際は、ショルツ首相が地元の慰霊祭に出席した。
一連の事件によって、世論の政府の移民・難民政策への風当たりは強くなっており、連立与党で緑の党、SPD(社会民主党)の政治家も、アフガンやシリアへの送還促進に賛成するようになった。 緑の党のロベルト・ハーベック副首相兼経済・気候相は「殺人者、テロリスト、イスラム原理主義者に寛容はない。これらの者は庇護の権利を失う」と強硬な姿勢に転じた。 外国人の人権についてとりわけ敏感なドイツだが、左派政治家も強硬策を表明せざるを得なくなったところに、問題の深刻さがうかがえる。