『冬のソナタ』で大きなビジネスへ! 韓国の「OST」が発展した背景【古家正亨のBEATS of KOREA】
여러분! 안녕하세요? 皆さん! こんにちは。 古家正亨です。 はじまりました『BEATS of KOREA』。僕、古家正亨が、四半世紀に渡って関わってきた、お隣の国「韓国」のエンタテインメントの鼓動……「ビート(Beat)」、その魅力を紹介していきますよ。 【写真で確認】『私の夫と結婚して』世界的大ブレイク俳優ナ・イヌが来日! トークイベントのMCは古家さん ■OSTって? OST(オリジナル・サウンドトラック)についてまずは説明しなくてはなりませんよね。日本では「サウンドトラック」、略して「サントラ」と呼ばれることの多いこのOSTですが、日本でもすっかり「OST」といえば、何の事か理解してくれる人が増えたような気がします。 堅い話になりますが、そもそも映像と音楽との歴史は古く、初めて映像作品のためのオリジナル音楽が作られたのは、組曲「動物の謝肉祭」や交響詩「死の舞踏」などで知られる、フランスの作曲家であるシャルル・カミーユ・サン=サーンス(1835‐1921)による1908年に公開された『ギーズ公の暗殺』という映画のための音楽だったそうです。まだまだ理解されていなかった映画という文化に対する関心を高めるために、当時、作曲家として確固たる地位と名声を得ていたサン=サーンスさんに音楽を提供してもらうことで、映画の価値を高めようと考えた結果だったそうです。 このように、映画やドラマなどの映像作品の価値をより高めるため、そして、主人公たちの感情表現をより巧みに表現するための術として、100年以上も前から、映像と音楽の関係は重要であったわけです。 そこから一気に時は流れ、韓国でのその歴史はというと……1976年夏に公開されたアニメーション映画『ロボットテコンV』が、韓国におけるオリジナルOSTの元祖と言われています。ただOSTとして脚光を浴びることになったのは、93年公開の映画『風の丘を越えて/ 西便制(ソピョンジェ)』のOSTでした。韓国の伝統芸能「パンソリ」をテーマに描いた名作で、「西便制シンドローム」を巻き起こすほどの大ヒットとなりました。ある意味「音楽映画」と言っていいでしょう。この作品のおかげでパンソリに対する社会の関心が高まったとされています。 この音楽を担当したのが、韓国を代表するシンガーソングライターのキム・スチョルさんで、彼が手掛けたこのOSTは、当時、海賊盤を含めると100万枚のセールスを超える大ヒットになりました。 正確なセールス面で言うと1997年に公開された、ハン・ソッキュさん、チョン・ドヨンさんという「国民俳優」が主演の映画『接続 ザ・コンタクト』のOSTが、80万枚のセールスを記録し、韓国国内のOST販売量の記録を保持しているんです。ただ、主題歌はオリジナル曲ではなく、アメリカを代表するジャズ・ヴォーカリストであるサラ・ヴォーンの代表曲「A Lover’s Concerto」だったんですね。日本でもおなじみのこの曲ですが、この映画をきっかけにCMやテレビ番組のBGMにもかなり使われることになり社会現象になったほどです。 僕が以前、自分の著書『Disc Collection K‐POP』(シンコーミュージック刊)でも紹介しているように、映画『八月のクリスマス』や『春の日は過ぎゆく』『ラストプレゼント』などの音楽監督を手掛けている韓国を代表する作曲家のチョ・ソンウさんとのインタビューで監督は、「当時(2000年代前半まで)は、韓国の映像クリエイターたちは、作品を構成する『音楽』に対する関心が低く、音楽に対する予算や時間の費やし方は、残念ながら他国の比にならない。そのため、OSTは蔑ないがしろにされる傾向が強かった。歌い手の多くは無名、もしくは新人の歌手。作曲家は安い金額で楽曲を買い取られ、当然レコーディングにかけられる時間も少なかった。放送と撮影がほぼ同時進行していく環境の中で、映像に合った音楽を作れる余裕すらなかった」と指摘しています。 ですから、当初は少ない予算で良質な音楽を届けるために「OST歌手」と呼ばれる、正規デビューしていないものの歌が上手い人や、顔の見えない新人歌手たちを活用して、厳しい環境の中、OSTが制作されていたんですね。 また、2000年公開の映画『シュリ』の成功以降、ハリウッド型のブロックバスター作品の制作が韓国では相次ぎましたが、それに合わせてOSTも、いわゆる『トップガン』型と言われる、劇伴ではなく歌唱楽曲を中心とした、オムニバスアルバム形式のものが増えていくことになります。 そういった中で、書き下ろしの映画主題歌として初めて大きなヒットとなったのが、2001年に公開された映画『猟奇的な彼女』のOSTから生まれた「バラード界の皇帝」と呼ばれる韓国を代表するシンガーソングライターのシン・スンフンさんが歌う「I Believe」でした。とはいっても、まだまだOSTを取り巻く環境は、決して良いものではなかったわけですが、そんな環境を大きく変えたのが、まぎれもなくドラマ『冬のソナタ』のOSTヒットだったわけです。 2003年4月にNHK BS2で放送されたドラマ『冬のソナタ』ですが、そのOSTとして日本で同年の9月に発売された『冬の恋歌(ソナタ) オリジナル・サウンドトラック完全盤‐国内盤‐』(ユナイテッド・アジア・エンターティメント)は、オリコン基準で91万枚の売り上げを達成して、さらにこれに便乗する形でリリースされたさまざまな企画盤を合わせると『冬ソナ』関連で150万枚の売り上げを記録するほどのヒットとなりました。それまで蔑ろにされていたドラマや映画の音楽が、OSTという形で大きなビジネスになることを、日本で、『冬のソナタ』が証明したわけです。 特にテーマ曲のRyuさんが歌った「最初から今まで」は、イントロを聴いただけで、主演の2人の姿が目に浮かぶほど、印象に残る楽曲だといえるでしょう。ところがこの「ヒットのため」に、日本における韓国の音楽の広まりはむしろ停滞してしまうことになります。 古家正亨(ふるや まさゆき)PROFILE 1974年北海道出身。上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了。専門は韓国大衆文化、日韓文化比較論。2000年以降、ラジオ、テレビなどのマスメディアを通じて、日本における韓国大衆文化の普及に努め、韓国政府より文化体育観光部長官褒章を受章。 また年200回以上の韓流・K-POPイベントのMCを務め、スターとファンの橋渡し役を20 年以上に渡って続けている。現在もNHK R1 「古家正亨のPOP★A」、ニッポン放送「古家正亨 K TRACKS」、FMノースウェーブ「Colors Of Korea」、テレビ愛知「古家正亨の韓流クラス」など、ラジオ・テレビのレギュラー番組を通じて、韓国大衆文化の魅力を紹介している。 主な著書に『K-POPバックステージパス』(イースト・プレス刊)、『DiscCollection K-POP』(シンコーミュージック刊)など多数。 2024年8月26日(月)には自身のファンミーティング「古家x藤原ファンフェスタ スペシャルゲスト超特急カイ」を飛行船シアター (東京都)にて開催! 【文=古家正亨】 ※本記事は古家正亨著の書籍『BEATS of KOREA いま伝えたいヒットメイカーの言葉たち』から一部抜粋・編集しました。